「離婚」って何?【その14】

テーマは「離婚」で,今回は「財産分与」についてお話します。

1 財産分与とは

民法には,離婚をした者の一方が相手方に対して財産の分与を請求できるという定めがあります(768条1項・771条)。こうした権利を一般に「財産分与(請求権)」といいます。

この財産分与は,配偶者に対する離婚後の生活保障の意味や,慰謝料の意味でなされることもありますが,メインは結婚中の夫婦共同財産の清算としてなされるものだとされます。

この「夫婦共同財産の清算」とは何か,ですが,いわば結婚期間中に夫婦が協力して築いた財産をもちより評価して,その価値を半分ずつに分け合うものだとイメージされると,間違いがないのではと思います。

以上から,財産分与の対象となる「財産」とは,結婚期間中に夫婦双方が協力して築いた財産とされます。ところで,法律相談をお受けしていると,『妻(夫)は専業主婦(主夫)でずっと働いていなかったし,今ある財産を築いたのは私だけだから,この財産は全部私のものですよね?』とか『マイホームの名義は私だし,住宅ローンも私がすべて支払ったのだから,これは私だけのものでしょう?』というお尋ねが,時々あります。

この点ですが…結婚期間中に築かれた財産であれば,その部分の財産は半分ずつに分けられることになるだろうと思われます。専業主婦(主夫)の場合でもその期間中に夫婦で築いた財産は原則として折半となると思われますし,不動産や自動車のように登記登録があり,その名義が夫(妻)のいずれかであったとしても,名義が一方のみであることを理由にこれを財産分けしなくてよいことにはなりません。

他方で,独身時代(結婚前)からそれぞれが所有していたことが明らかな財産や,結婚期間中に取得した財産でも相続等によるものは,財産分与の対象として離婚時に折半される財産からは外れます(特有財産と言ったりします。)。これらは,結婚期間中に夫婦双方が協力して築いた財産とはいえないと考えられるからです。

2 財産分与の手続

民法には,財産分与の協議がまとまらない等の場合には家庭裁判所に財産分与についての判断を求めることができるものの,離婚の時から2年を経過するとそれができないと定められています(768条2項)。

こうした定めから,財産分与請求権は,離婚後(離婚と同時)から2年の間に限って,(夫婦双方の)協議や(家庭裁判所の)調停・審判を経ることで成立すると考えられています。この「離婚から2年間」の制限は,ぜひ頭に入れておいていただければと思います。

ちなみに,前号までお話しした「(離婚による)慰謝料」は,基本的には離婚後3年が経過するまでに請求すべきとされます(民法724条)。

3 離婚にあたって解決すべき課題として,若いご夫婦では,お子さんの親権や監護権それに養育費が大きなテーマとなりやすいのに対し,婚姻期間が長いご夫婦の場合は,むしろこの財産分与が大きなテーマになりやすいです(結婚期間が長いと,夫婦で協力して築いた財産も多くなりやすいため)。

財産分与については,詳細を詰めていくと,色々悩ましい問題が出てきます。例えば,離婚後に相手方が受け取る予定の退職金は含まれるかとか,多額の住宅ローンが残っている自宅をどう評価するかとか,先ほど申し上げた「結婚期間中に夫婦が協力して築いた財産をもちより評価して,その価値を半分ずつに分け合う」といっても,実際にどうやって「分け合う」のか,等々です。

財産があったらあったで悩ましいですが,こうしたことでお悩みの方は,一度弁護士に相談されてみたらよいと思います。

以 上


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「離婚」って何?【その13】

テーマは「離婚」ですが,「離婚原因」のうち不貞行為について,不貞をされた側の配偶者と不貞の相手方との関係がどうなるか,補足してお話しします。

1 不貞をした配偶者との関係

(1) 「不貞行為」とは,配偶者のある者(A)が自由な意思により配偶者(B)以外の者(C)と性的関係を結ぶこととされています。ここでの「性的関係」の意味ですが,典型的には,異性との肉体関係(性交渉やこれに極めて類似した行為)が挙げられます。

実際の裁判で「離婚原因」ありとして離婚が認められるケースとしては,こうした性的関係が一定程度継続していることが,(配偶者Aがそのことを認めない限り)「証拠」によって裁判所に認定される場合であること,そうした「証拠」を揃えるのが実は思ったよりも大変なことは,前号でお話ししたとおりです。

(2) 仮に,配偶者Aに(継続的な)不貞行為があり,それによって夫婦関係がぶち壊しになったと裁判所でも認定してもらえるような状況になると,配偶者Bは離婚判決を書いてもらえる(裁判で離婚ができる)ことになるでしょう。

また,その場合には,夫婦関係を壊されてしまった配偶者Bは,壊してしまった配偶者Aに対し,不貞をされたり夫婦関係を壊されたりしたことで受けた精神的苦痛を損害として損害賠償請求をしていれば,そうした請求も認められる可能性が高いです。

このような,精神的苦痛を受けたことの損害賠償を「慰謝料」といいます。なお,慰謝料は,理論上は精神的苦痛が発生すれば請求し得るのですが,裁判で実際に慰謝料が認められるケースとしては,(不貞や暴力等の)離婚原因がある場合や(故意や過失による)人身傷害がある場合等,一定の場合に限定されるように思われます。

2 不貞行為の相手方との関係

(1) ところで,不貞行為は配偶者Aひとりではできませんから,その相手方(C)がいることになります。では,配偶者Bと不貞の相手方Cとは,どのような関係に立つのでしょうか。

(2)  仮に,配偶者Aと相手方Cとの間で(継続的な)不貞行為があり,それによって夫婦関係がぶち壊しになったと裁判所でも認定してもらえるような状況であれば,配偶者Bは,その相手方Cに対しても,不貞をされたり配偶者Aとの夫婦関係を壊され(そうになっ)てしまったことで受けた精神的苦痛を損害とした慰謝料請求が認められる可能性が高いです。

この点,裁判所の考え方は,「夫婦の一方(A)と肉体関係を持った第三者(C)は,故意又は過失がある限り,…他方配偶者(B)の夫又は妻としての権利を侵害し,その行為は違法性を帯び,他方配偶者(B)の被った精神的苦痛を慰謝すべき義務がある」というものです【最高裁昭和54年3月30日判決】。その上で,「合意による貞操侵害をもって,家庭の平和を崩壊させた場合には不法行為となるが,悪質な手段を用いて相手方の意思決定を拘束した場合でない限り,その主たる責任は不貞をした配偶者(A)にあり,不貞の相手方(C)の責任は副次的なものである」という考え方もとっているようです【東京高裁昭和60年11月20日判決】。

(3)  まとめると,不貞の相手方Cは配偶者Bに対して慰謝料を支払わなければならない立場であることが原則ですが,その責任ないし支払額が,具体的ケースにより限定され得るという傾向にあると思われます。

例えば,不貞行為の内容(AとCのどちらが誘ったか,不貞の期間や回数,AC間でどのような行為がなされたか)とか,それにより配偶者Bが配偶者Aと離婚したり,別居に至ったりしたかとか,配偶者Aが配偶者Bに対してどのような慰謝の行動をとったかとか,さらには相手方C自身の財力等,色々な具体的な事情をふまえて,その責任の程度が判断されることになるでしょう。

3 ところで,不貞関係については,例えばCにも配偶者(D)がいた場合には,DからすればAが不貞の相手方にあたりますから,DからAに対し慰謝料請求がなされる可能性も十分あります。以上のように,不貞行為のケースは,各関係者(ABCD)の利益状況が錯綜し,また,各関係者がそれぞれ今後どのような対応をとるべきか悩ましい状況になる可能性があるケースといえます。

こうしたことでお悩みの方は,一度弁護士に相談されてみてもよいでしょう。

以 上


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「離婚」って何?【その12】

テーマは「離婚」で,前回に続いて「離婚原因」のうち,①不貞行為(1号)と⑤婚姻を継続し難い重大な事由(5号)について,補足してお話しします。

1 離婚原因とは

民法770条1項は,離婚判決をもらうための裁判(離婚の訴え)を起こす条件として,①不貞行為(1号),②悪意の遺棄(2号),③3年以上の生死不明(3号),④回復の見込みのない強度の精神病(4号)及び⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由(5号)を求め,こうした事情がある場合に限って,離婚訴訟を起こすことができると定めています。こうした①~⑤の事情を,「離婚原因」といいます。

そのうち,実際に離婚原因として認められやすいものは,①不貞行為と⑤婚姻を継続し難い重大な事由(この中でも特に暴力)だと思います。

2 ①不貞行為(1号)

(1)「不貞行為」とは,配偶者のある者が自由な意思によって配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいうとされています。ここにいう「性的関係」の意味ですが,典型的には,異性との肉体関係(性交渉やこれに極めて類似した行為)が挙げられます。

実際の裁判で「離婚原因」があるとして離婚が認められるケースとしては,こうした性的関係が一定程度継続していることが,証拠によって,あるいは相手方がこれを認めることによって,裁判所に認定される場合です。

要するに,そうした事情が「ある」と認定されれば,夫婦関係がこうした事情によりぶち壊しになったと判断されて,裁判所から離婚判決をもらっても仕方がないでしょう,ということです。

(2) 問題は,こうした性的関係の一定程度の継続はどのような「証拠」によって裏付けられるのか,ということです。こうした「証拠」を揃えることは,実は思ったよりも大変です。

一般的にこうした「証拠」となり得るものとしては,不貞行為の当事者間のやり取りの記録が考えられます。こうしたやり取りの内容から性的関係があったことを窺われる場合,その記録は不貞行為の証拠となり得ます。やり取りの記録としては,手紙とか,(パソコンや携帯電話等の)メール等が考えられます。

また,不貞行為を行った配偶者やその相手による,不貞行為をしたことを認める内容の書面(謝罪文や念書等)も,「証拠」になり得るでしょうし,不貞行為の「証拠」の種類はその他にもいろいろなものが考えられます。

(3) ただ,重要なことは,こうした「証拠」(の組合せ)から,性的関係の一定程度の継続があり,これによって夫婦関係がぶち壊しになったと裁判所に認定してもらえるかどうかです。ですから,この証拠があれば直ちに不貞行為が認定される,というものがあるわけではありません。例えば,手紙や携帯メールのやり取りが何百通あったとしても,その内容から性的関係があることが窺われない場合(むしろないことが窺われる場合)には,それらは不貞行為の証拠にはならないでしょう。

3 ⑤婚姻を継続し難い重大な事由(5号)

(1) これは,前月号でお話ししたように,民法770条1項~4項に挙がっていないものの,こうした事情があったら夫婦が協力し合って家庭生活を築き,続けていくことが無理だろうといえる事情であると言われます。

そこで,「婚姻を継続し難い重大な事由」には実に多くの事情が主張され得ることになりますが,実際の裁判で離婚原因として認められやすいものは,やはり「(肉体的)暴力」があることだろうと思われます。

実際の裁判で「暴力(被害)」があるとして離婚が認められるケースとしては,こうした暴力(被害)が,証拠によって,あるいは相手方がこれを認めることによって,裁判所に認定される場合です。

(2) 問題は,こうした暴力(被害)がどのような「証拠」によって裏付けられるのか,ということです。こうした「証拠」を揃えることも,不貞行為のそれと同じくらい,思ったよりも大変です。

一般的にこうした「証拠」となり得るものとしては,医師の診断書が考えられます。暴力を受け怪我をした際に,診断書をもらっておけば,少なくとも怪我を負ったことはお医者さんに証明してもらえます。できれば,怪我をしたら辛くてもすぐに,病院で診断を受け,診断書をもらうべきです。時間が経ってしまうと,その診断書で証明された怪我が,暴力(被害)によって発生したかどうかが不明になってしまう可能性があるからです。また,診断書を作ってもらうと同時に,ご自分で(内出血等で赤くなっている程度のものも含めて)怪我の箇所を写真で撮っておく(撮ってもらう)ことも大事でしょう。

また,暴力被害を警察に相談した場合はその時の記録や,暴力を受けた様子を目撃した人がいればその人の証言も,暴力(被害)の「証拠」になり得るでしょうし,配偶者自身が暴力を振るったことを認める内容の書面(謝罪文や念書等)をもらっておけば,これも「証拠」になり得るでしょう。暴力(被害)の「証拠」についても,その他いろいろなものが考えられます。

(3) ただ,重要なことは,こうした「証拠」(の組合せ)から,配偶者による(肉体的)暴力があり,これによって夫婦関係がぶち壊しになったと裁判所に認定してもらえるかどうかです。ですから,この証拠があれば直ちに暴力(被害)が認定される,というものがあるわけではありません。暴力の内容・程度・回数により,夫婦関係が維持できない状況になっていると認めてもらえるような証拠を揃え,組み合わせていくことが必要です。

4 以上のように,不貞行為でも,暴力(被害)でも,どのような内容のものであれば「離婚原因」となり得るか,そうした事情を証拠(の組合せ)から立証できるか,そのための証拠は揃っているか,これから集められるか等は,とても判断が難しいことです。

こうしたことでお悩みの方は,一度弁護士に相談されるとよいでしょう。

以 上


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「離婚」って何?【その11】

テーマは「離婚」で,前回に続いて「離婚原因」のお話をもう少し詳しくしていきます。

1 離婚原因とは

民法770条1項は,離婚判決をもらうための裁判(離婚の訴え)を起こす条件として,①不貞行為(1号),②悪意の遺棄(2号),③3年以上の生死不明(3号),④回復の見込みのない強度の精神病(4号)及び⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由(5号),を求め,こうした事情がある場合に限って,離婚訴訟を起こすことができると定めています。

このような,離婚訴訟を起こし,裁判所に離婚を認める判決を書いてもらうための条件であるこれらの事情(民法770条1項1~5号)を「離婚原因」といいます。

具体的に①~⑤について見ていきましょう。

2 ①不貞行為(1号)

「不貞行為」とは,配偶者のある者が自由な意思によって配偶者以外の者と性的関係を結ぶことをいうとされています。ここにいう「性的関係」の意味ですが,典型的には,異性との肉体関係(性交渉やこれに極めて類似した行為)が挙げられます。

これに関連して,いわゆる「浮気」をされたので離婚できるのではないかというご相談を受けることは大変多いです。これについては,「浮気」の内容が「性的関係」を伴ったものとして不貞行為と評価できるものか(これを証拠によって説明できるか)にかかってくると思われます。「浮気」の内容がいわゆる精神的なつながり(いわゆる「プラトニック・ラブ」)に留まる場合であれば,不貞行為として離婚原因となることはないでしょう。

3 ②悪意の遺棄(2号)

「悪意の遺棄」とは,正当な理由がないのに,夫婦の同居義務,協力義務,扶助義務を守らないことであるとされています。

ただ,悪意の遺棄として離婚原因とされるためには,その行動が社会倫理的非難を受けるに値するものであることが必要とされます。具体的には,配偶者に無断で突然別居したに留まる場合にはこれにあたらず,例えば病気や障害等で保護が必要な状態の配偶者を置き去りにしたとか,配偶者を虐待等で追い出したり帰宅を拒んだというような,「これはひどいなあ」と思われる事情がある場合に初めて,「悪意の遺棄」として離婚原因とされるでしょう。

4 ③3年以上の生死不明(3号)

これについては文字通りかも知れません。具体的には,生存を最後に確認できた時から3年以上,(単に音信不通というレベルに留まらず)生きていることも死んでいることも証明できない場合で,かつ現在もその状態が続いていることを指します。

5 ④回復の見込みのない強度の精神病(4号)

「強度の精神病」とは,夫婦が協力し合って家庭生活を築き,続けていくことが無理だろうといえる程度の精神障害を配偶者が負っている場合であると言われます。

これについては,精神障害に陥ったこと自体に配偶者に責任があるとは言えないこともあり,その障害は相当程度強くかつ相当程度継続したものが想定されています。具体的に裁判においては,すべての事情を慎重に検討した上で,離婚原因と認められるかが決められることになると思われます。

6 ⑤婚姻を継続し難い重大な事由(5号)

これは,民法770条1項~4項に挙がっていないものの,こうした事情があったら夫婦が協力し合って家庭生活を築き,続けていくことが無理であろうといえる事情であると言われます。

そこで,「婚姻を継続し難い重大な事由」には実に多くの事情が盛り込まれ得ることになりますが,実際の裁判で離婚原因として認められやすいものは,やはり「(肉体的)暴力虐待」があること(これを証拠によって説明できること)だろうと思われます。

その他,ご相談の多いケースとしては,(配偶者が)「働かない」「浪費がひどい」「犯罪を犯した」「宗教活動をするのが負担である」といったものがあります。これらのケースについては,それ自体が離婚原因になるというよりは,こうした行動のひどさや,その他の事情の積み重ねにより,「こうした事情があったら,夫婦が協力し合って家庭生活を築き,続けていくことは無理でしょうね…」と裁判所に認めてもらえるかが,ポイントになると思われます。

次回は,こうした離婚原因(民法770条1項)のうち,①不貞行為(1号)と⑤婚姻を継続し難い重大な事由(5号)について,補足してお話しようと思います。

以 上


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「離婚」って何?【その10】

テーマは「離婚」で,「離婚原因」のお話をします。

1 離婚原因とは

民法770条1項は,離婚判決をもらうための裁判(離婚の訴え)を起こす条件として,「配偶者に不貞な行為があった」(1号),「配偶者から悪意遺棄された」(2号),「配偶者の生死三年以上明らかでない」(3号),「配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがない」(4号),「その他婚姻を継続し難い重大な事由がある」(5号)ことを求め,こうした事情がある場合に限って,離婚訴訟を起こすことができると定めています。

このような,離婚訴訟を起こし,裁判所に離婚を認める判決を書いてもらうための条件であるこれらの事情(民法770条1項1~5号)を「離婚原因」といいます。

2 協議離婚なら,すぐにでもできる

「生存中の夫婦が婚姻関係を解消すること」である離婚は,その効果の重大性から,戸籍法に定める届出がなされないとその効力が発生しないという制限はありますが,当然ながら,夫婦お互いの合意があれば,することができます。これを一般に「協議離婚」といいます。

具体的には,協議離婚は,役場に備付けの離婚届の用紙に,当事者(夫婦)双方及び成年2人の証人がそれぞれ署名・捺印して,住所地等の市区町村役場に届け出て受理されれば,できます。

3 裁判離婚は,いろいろと大変

他方で,離婚したいけれども相手方がこれに応じてくれない場合(相手方が離婚届に署名捺印してくれない等)には,離婚したい人がその意思を貫いて相手方と離婚をするためには,離婚訴訟を起こして,裁判所に離婚を認める判決を出してもらわなければなりません(これを一般に「裁判離婚」といいます。)。そして,離婚判決を得るためには,先ほどお話しした「離婚原因」が相手方にあることを主張し,これを立証して,裁判所にこれを認めてもらわなければなりません

しかも,こうした離婚訴訟を起こすにあたっては,原則としてその調停申立てをして,相手方との話し合いの機会を設けなければなりません(家事事件手続法257条。「調停前置主義」)。

このように,離婚調停を経て(調停が不成立となったことを受けて)離婚訴訟を起こし,お互いの言い分をきちんと出し合った結果判決となるケースでは,離婚判決が出される場合でも,合計すると1年6ヶ月くらいは裁判所での話し合いが続く可能性があります。こうした離婚訴訟に討って出ても,相手方に離婚原因がない(離婚したい理由が「性格の不一致」のみである等の)場合や,あってもこれを証拠によって証明できない(相手方が不貞行為をしていることは間違いないと思われるが,その証拠を提出できない等の)場合には,かえって離婚を認めない判決が出されてしまうことになります。

そこで,離婚をしたいけれども相手方が離婚に応じてくれないという人は,①相手方にこうした離婚原因があるか(これを立証できる証拠があるか),②離婚判決を求めて調停さらには裁判をすることによる,時間やお金や労力の負担にたえられるか,場合によっては③相手方に離婚に応じさせて,協議離婚という形で離婚するためにいい方法はないか等を,慎重に検討した上で行動を起こした方がいいと思います。そうした「見立て」についてのアドバイスは,弁護士からもらった方がよいかも知れません。

なお,離婚原因(民法770条1項)すなわち,①不貞行為(1号),②悪意の遺棄(2号),③3年以上の生死不明(3号),④回復の見込みのない強度の精神病(4号)及び⑤その他婚姻を継続し難い重大な事由(5号)と言っても,③や④はともかく,①や②は分かるようでよく分からない言葉であり,⑤は具体的には何が何だかまったく分からない言葉です。

大雑把にいえば,「こんなことがあったら夫婦共同生活は続けていけないでしょう?」と言えるような事情,なのですが,次回以降は,こうした離婚原因の①~⑤について,詳しく説明していきます。

以 上


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「離婚」って何?【その9】

テーマは「離婚」で,「面会交流(面接交渉)」のお話をします。

面会交流(面接交渉)とは,離婚後または別居中に,子どもと一緒に暮らしていない親が子どもと面会することをいいます。

面会交流については,①親である以上子どもに会いたいと思うのは自然なことであり,そうした観点からは,親の権利(面会交流権)として捉えられます。他方で,②子どもにとっては,両方の親との交流がきちんとできることで,いずれの親からも愛されていると感じ,そのため両親の離婚や別居というつらい出来事から立ち直り,心身ともに健やかに成長できると考えられています。

面会交流は,このように②子どもの幸せ(子の福祉)を確保するための環境整備といった側面があり,むしろこの側面が重視されるべきかと思われます。

面会交流の具体的な内容(いつ,どれくらいの頻度で,どこで行うか等)や方法(送り迎えはどうするか等)については,基本的には夫婦の話し合いで決められることになります。もっとも,夫婦2人での話し合いでは折り合いがつかない,ということもあるでしょう。また,話し合いで取り決められた面会交流が始まった後に,子どもに会わせてもらえなくなった…ということも全くないとは限りません。

そういった場合に有効な方法としては,家庭裁判所に面会交流(子どもの監護に関する処分)の調停を申し立てることで,話し合い自体を裁判所で行うことが考えられます。

調停では,子どもと一緒に暮らしていない親が子どもと面会等を行うことについて,面会に応じるか,その場合にその日時,場所などといった具体的な内容や方法について,調停委員を交えてお互いの考えを述べることになります。その際には,「子どもの心身ともに健やかな成長のために何が必要か」という観点が重視されます。具体的には,子どもの年齢,性別,性格,就学の有無,生活のリズム,生活環境等を考えて,子どもに負担を与えないよう十分配慮した取決めができるよう,話し合いが進められることになります。

調停の中で,話し合いをよりスムーズかつ適切に進める必要があると考えられる場合や,子どもの気持ちを確認したい等の場合には,家庭裁判所から派遣される調査官が対応することがあります。調査官は,調停に参加したり,子どもと面接してその心身の状態を把握したり,その気持ちを聞いたりして,必要に応じて意見を述べます。

こうした調停での話し合いの結果,面会交流の取決めができればよいのですが,仮に話し合いがまとまらなかった場合は,調停は不成立となります。その場合には,自動的に審判手続が開始し,裁判官が(調停での話し合いの結果を含む)一切の事情を考慮した上で,面会交流を認めるか,認める場合の具体的な内容や方法について,審判をすることになります。

このように,面会交流の方法を調停や審判で取り決めた約束を相手方が守ってくれない場合の方法として,以下のものが考えられます。

A 家庭裁判所の調停や審判で決めた面会交流の約束に違反があったときは,「履行勧告」といって,家庭裁判所から約束を守るよう相手方に指導してもらうことができます。裁判所からの指導なので,相手方にとっては相当なプレッシャーになると考えられます。

B 次に,調停や審判の取決めの内容にもよりますが,裁判所に申立てをすることにより,取り決めた面会を1回拒むごとに金○万円の支払いを命じる形で,間接的に面会交流を強制することができる場合があります。これを「間接強制」といいます(もっとも面会交流それ自体を強制的に行わせることはできないと考えられています。)。

もっとも,先ほどお話ししたように,面会交流は,子どもの幸せ(子の福祉を確保するための環境整備といった側面がありますので,お互いにまずは子どもの幸せを一番に考え,話し合い等により取決めをし,取り決めた内容についてはお互いその実現に協力し合う姿勢が,大切なのだと思います。

以 上


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「離婚」って何?【その8】

テーマは「離婚」で,前回に引き続き,「養育費」「婚姻費用」(離婚に前後して支払われるべき月々の生活費)のお話をしています。

今回は,①養育費や婚姻費用がどうやって具体的な金額として決まるのか,②具体的に決められた養育費や婚姻費用をどういう方法で獲得するか,のうち,②についてお話しします。

養育費や婚姻費用は,基本的には夫婦の話し合いで決められることになります。もっとも,夫婦2人での話し合いでは折り合いがつかない,ということもあるでしょう。また,話し合いで一旦は取り決めができて,養育費や婚姻費用を支払ってもらうことになったとしても,現にお子さんを育て,日々の生活費を負担する立場の親としては,この先いつ支払ってもらえなくなるかわからないから不安だな…ということもあるでしょう。

そういった場合に有効な方法としては,A 養育費や婚姻費用の支払いを約束する契約書を作成し,その上でこれを「公正証書」という特別な形式の書面にしておく方法,それと,B 家庭裁判所に養育費や婚姻費用の分担を求める調停を申し立てることで,話し合い自体を裁判所で行う方法,があります。

まず,Aここにいう公正証書とは,公証人という公務員による証明が行われた文書をいいます。公証人は,市区町村役場ではなく「公証(人)役場」という場所にいます。なお,最寄りの「公証(人)役場」は,人吉球磨地域だと八代市内,伊佐地域だと薩摩川内市内,それにえびの地域だと都城市内となります。その「公証(人)役場」で,公証人に一定の手数料を支払い,養育費や婚姻費用の支払いを約束する契約書を「公正証書」にしてもらうのです。

養育費や婚姻費用の支払いを約束する契約書を公正証書にする大きなメリットは,契約内容がきちんと証明されるだけでなく,公正証書の中に「約束した支払いを怠ったら,直ちに強制執行をされても文句を言いません。」という言葉を入れておけば,養育費や婚姻費用の支払い約束が守られなかったら,一定の手続にしたがって相手方の給料や預金等の財産に強制執行差押え等)をすることが可能になるという点です。その結果,「相手方にお金があるのに養育費や婚姻費用を支払ってもらえない…」という事態は,避けられるかと思います。

ただし,公正証書の元となる養育費や婚姻費用の支払いを約束する契約書については,公証人は作ってくれません。そうした契約の内容(養育費や婚姻費用の金額や支払期間だけでなく,お子さんの親権や面会交流のあり方等も含みます。)については,夫婦で予めよく話し合う必要があります。

こうした契約書作成にあたっては,いろいろな事情を考慮する必要があることも多いことから,一度は弁護士に相談されることをお勧めします。

つぎに,B 調停ですが,これは家庭裁判所という場所で,調停委員のアドバイスを受けながら,養育費や婚姻費用の金額や支払期間等の条件を話し合いで決めていく手続です。

養育費の取り決めについては,離婚や親権の取り決め,面会交流のあり方の取り決めの調停と合わせて行われることもあります。なお,気をつけなければならないのは,こうした調停は,調停の相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てる必要があるということです。

調停の場では,何回かの期日に参加する中で,お互いの言い分や事情(経済状態等)を調停委員を通じ相手方に伝えることで,あるべき養育費や婚姻費用の金額等の条件を決めていきます。そうした話し合いの際には,前号でご説明したいわゆる「算定表」が,重要な物差しとして用いられます。

こうした算定表や調停委員のアドバイスを参考に話し合いが進み,その結果(離婚・親権その他の点と合わせて)養育費や婚姻費用の金額等の条件について合意ができたら,調停成立したとして,「調停調書」が作られます。こうした「調停調書」が作成されることの大きなメリットとしては,公正証書と同じく,そこで合意した養育費や婚姻費用の支払い約束が守られなかったら,一定の手続にしたがって相手方の給料や預金等の財産に強制執行(差押え等)をすることが可能になるという点です。

ところで,万が一,調停での話し合いではあるべき養育費や婚姻費用がどうしても決まらない(あるいは相手方が支払い自体を拒否して話にならない)という場合には,審判を申し立てることで,養育費や婚姻費用については裁判官(審判官)の最終判断(審判)を仰ぐことができます。その場合,審判の結果が示された「審判書」に記載の養育費や婚姻費用の支払いがされなかったら,公正証書(とされた契約書)や調停調書と同じく,一定の手続を経ることで相手方の給料や預金等の財産に強制執行(差押え等)をすることが可能になります。

以上お話ししてきたように,養育費や婚姻費用の金額を決めるにあたっては,「算定表」という物差しがあり,またその実現の方法として「公正証書」「調停」それに「審判」という道具がありますが,基本は,夫婦が,お互いの現在及び将来の経済的負担の状態やお子さんの福祉にできるだけ配慮し,お互いに可能な範囲で譲り合いながら話し合いをすることが望まれるのだと思います(難しいとは思いますが…)。

養育費や婚姻費用についても,夫婦2人で「あるべき姿が何か」を決めていく作業は,簡単ではありません。そういうことで困ったときは,弁護士に相談されることで,解決の糸口が見つかることもあるかと思います。

次回は,離婚のうち,お子さんとの「面会交流」について,お話しする予定です。

以 上


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「離婚」って何?【その7】

テーマは「離婚」で,前回に引き続き,「養育費」あるいは「婚姻費用」(離婚に前後して支払われるべき月々の生活費)のお話をしています(養育費と婚姻費用の違いについては,前号をご覧ください。)。

今回は,①養育費や婚姻費用がどうやって具体的な金額(「月○万円」)として決まるのか,②具体的に決められた養育費や婚姻費用の獲得をどういう方法で実現するのか,のうち,①についてお話しします。

養育費や婚姻費用をどうやって決めるかですが,まずは夫婦間での話し合いということになります。

といっても,何を基準に話し合って決めたらいいかわからないというのが,正直なところだと思います。お子さんを監護養育している方の親は,より多い金額にしてほしいと思うでしょうし,他方で支払う方の親としては,より少ない金額にしたいと思うため,そのままでは話し合いがつかないかも知れません。

そこで,そうした話し合いの際に,金額を定める基準(物差し)として大変参考になるのが,家庭裁判所で作成されたいわゆる「算定表」というものです。これは,あるべき養育費・婚姻費用の算定を目指して作られたもので,話し合いをする時点での夫婦それぞれ収入額子ども数・年齢等の事情(数字)をあてはめると,養育費・婚姻費用のおおよその金額がわかるように作られています。例えば,特別な事情がなければ,「子どもさんが○人いてそれぞれ○歳で,夫婦の(税込)年収がそれぞれ○○○万円,○○○万円だったら,この時点での養育費・婚姻費用は月○万円くらいになる。」ということがわかるようになっています。

なお,夫婦それぞれの(税込)収入は,例えば給与所得者の方であれば,いわゆる「源泉徴収票」の総支給額の欄を見ることで,わかると思います。

この「算定表」は,家庭裁判所には備え置かれていて,次回お話しするように,養育費や婚姻費用の取り決めの方法として家庭裁判所の調停での話し合いを選んだ場合,その席上では,調停委員からこうした表を示され説明されることもあるかと思います。もっとも,この「算定表」は,秘密のものではなく,書籍として刊行されています。ちょっと大きめの本屋さんの「生活の法律」コーナーでいわゆる「離婚もの」の本を見てもらうと,その巻末に「養育費」とか「婚姻費用」というタイトルの,グラフのような方眼用紙のような「表」が掲載されているかと思います。これが「算定表」です。また,パソコンを使う方は,インターネットでもこれを検索できるのではないかと思います。

このように,養育費や婚姻費用の金額を決めるにあたっては,「算定表」を基準(物差し)に夫婦で話し合っていくことになると思われますが,これを基準にしつつも,別に考慮した方がいい事情もあり得ます。例えば,別居して家を出た夫が,妻子の住んでいる自宅の住宅ローンを(自分が別居後借りて住んでいるアパート代のほかに)支払っているという場合は,妻子の家賃相当の生活費を負担していると考えれば,養育費・婚姻費用の一部として加味されるのが適当でしょう。

その他,より詳しい話を知りたい,あるいは話し合いがまとまらない,どうしたらいいかわからない…という方は,そのたびに弁護士に相談されると,解決の糸口が見つかることもあるかと思います。

次回は,引き続き,②具体的に決められた養育費や婚姻費用の獲得をどういう方法で実現するのか,について,お話しする予定です。

以 上


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「離婚」って何?【その6】

前回に引き続き「離婚」について,今回は,離婚に前後して支払われるべき(月々の)生活費である「養育費」と「婚姻費用」についてお話しします。

まず,①「養育費」(民法766条)とは,「未成熟子が独立の社会人として成長自立するまでに要する全ての費用」を指すと言われます。例えば,子の衣食住の費用・教育費・医療費・適度の娯楽費等が,これに含まれると思われます。

次に,②「婚姻費用」(民法760条)とは,「夫婦と未成熟子により構成される家族が,その資産・収入・社会的地位に応じた通常の社会生活を維持するのに必要な費用」であって,夫婦が互いに分担すべき費用を指すと言われます。例えば,通常の範囲の家族の衣食住の費用・子の教育費・医療費及び家族の社会的地位にふさわしい娯楽費・交際費等が,これに含まれると思われます。

イメージとしては,①と②は離婚の前後で分かれ,①離婚後に子(未成熟子)のために負担すべき生活費養育費であり,②離婚前別居中に夫婦の一方が他方に対して負担すべき(未成熟子がいる場合はその分を含む)生活費婚姻費用である,と考えると,わかりやすいかと思います。

離婚にあたっては,未成熟子を監護(実際に養育)していない親は,監護している親に対し,離婚後にはこうした生活費等を①養育費として(毎月)支払わなければなりませんし,離婚に向けての別居中には離婚するまでは,未成熟子に(場合によっては)監護している親(他方配偶者)の分を加えた生活費等を②婚姻費用として(毎月)支払わなければならない,ということになります。

①や②に出てくる「未成熟子」とは,厳密には「未成年者(20歳未満)」とは異なります。①や②の支払い期間としては,家庭裁判所の調停や審判に持ち込まれた場合は,子どもの状態や親の資力及び学歴等の家庭環境をふまえ,18歳(高校卒業時)までとか20歳(成年に達した時)までとされるケースが多いと思います。

なお,①養育費は,夫婦が内縁関係だった場合でも,父が子を認知することにより法律上の親子関係が発生していれば夫婦の一方から他方に対し請求し得ます。また,養育費は,親子の扶養義務の表れという面があるので,未成熟子の親である限りは負担すべきとされ,例えば親権者にならなかったことを理由にその支払いを拒むことはできません。

また,②婚姻費用は,子がいない場合でも夫婦の一方から他方に請求し得ますし,また夫婦が内縁関係である場合も,夫婦の一方から他方に請求し得ます。

ところで,①養育費及び②婚姻費用を負担するにあたっての義務の程度は,いわゆる「生活保持義務」といって,自分の生活を保持するのと同程度の生活を被扶養者(未成熟子や夫婦の一方)に保持させる義務であるとされます。古めかしい言い方をすると,「一椀の粥も分けて食う」関係とされます。負担すべき立場とされる夫婦の他方としては,“自分の生活に無理のない範囲で,余裕がある時に最低限相手を食わせればいいじゃないか”と思いたいところですが,そうはいかないとされます(もっとも,負担すべき立場の人がいわゆる生活保護基準による最低生活費を賄うと経済的余力がないといった客観的な窮乏状態であれば,負担の義務を免れるでしょう。)。

次回では,こうした「生活保持義務」の表れである①養育費や②婚姻費用が,どうやって「月○万円」といった具体的な金額として決まるのか,そして,具体的に決められた①養育費や②婚姻費用の獲得どういう方法で実現するのか等について,それぞれご説明する予定です。

以 上


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「離婚」って何?【その5】

前回に引き続き「離婚」について,今回は,離婚と「親権」や「監護権」についてお話しします。

前回,父母が離婚するにあたって親権者を父母のいずれにするかについて合意ができず,裁判所でこれを決めないといけない場合,大変な時間と労力がかかってしまうことをお話ししました。

こうした紛争について,必要があり,それが不当でないと判断される場合に,子どもの「親権者」と「監護者」を分けることにより,紛争を避けることができる場合があります。

「監護者」とは,未成年の子を実質的に監護教育する権限(義務)の集まりであるとされます。「親権」の一部であって,そこから子を実質的に監護教育することについての権限を抜き出したもの,というと,イメージしやすいかも知れません。

「監護権」という言葉そのものは,民法には出てきませんし,また戸籍に記載されるわけでもありませんが,離婚後の子の「監護」についての規定である民法766条等がその根拠になると言われています。

例えば,一方の親(例えば母)が子をその手元で監護,教育することに争いがないけれども,子の財産管理や法律行為の代理については他方の親(例えば父)がこれを行うことを求めている,といった場合には,両者の話し合いがつけば,こうした役割分担を定めた上で,一方の親を「監護者」,他方の親を「親権者」と決めてから離婚する,というケースも,十分あり得ます。

こうした取り決めは,協議離婚をする際にもできます(その場合,合意書という形で,監護者の取り決めについてはきちんと書面に残しておくべきでしょう。)。もっとも,そうした話し合いができない場合は,結局は,家庭裁判所で審判により決めてもらうことになります。

ところで,この「監護者」の制度は,離婚するにあたっての子の監護に関するものですが,離婚に際しての場合に限らず,主に別居中の夫婦(離婚前なので共に「親権者」の状態)の一方から他方に対し,他方の親の手元にいる子の引渡しを求める場合に用いられることも少なくありません。具体的には,家庭裁判所に対して「監護者指定の審判申立て」「子の引渡しの審判申立て」を行うことで,一方の親が,子を手元で養育している他方の親に対して,子の引渡しを求めるというものです。

このように,「親権者」であれ,「監護者」であれ,父母のどちらが指定されるべきかについて争いが起きてしまっている場合,裁判所は,最終的にはとにかく「子の福祉(心身ともに健全な成長)にとって何がプラスか」という観点から判断するとされています。

もう少し具体的に言うと,裁判所は,①父母側の事情(子育ての環境良し悪しを判断する観点から,それぞれの心身の健康状態,生活サイクル,経済状況,住環境,親近者によるサポートの態勢等の事情を見る),②子ども側の事情(その年齢や意思…その発達段階によって,意思の尊重度合いは異なり得ます)を重要な判断要素として,必要に応じ,(家庭裁判所)調査官を派遣して,①②の事情を詳しく調査することもあります。

当然ですが,こうした「親権」「監護権」の争いの元は,お父さん・お母さん双方の,子どもを愛し,自分の手で育て,共に暮らしたいという自然・当然の愛情でありますし,かつ,そのために争いが深刻になってしまうため,こうした(法律)相談をお受けする弁護士としては,本当に悩ましいと感じることが多いです。そうした中で,それぞれ置かれた状況の中で,どうするのが相談者の方やお子さんにとってベスト(ベター)なのかということをアドバイスしたり,一緒に考えていくことになります。

仮にこうした「親権」「監護権」について夫婦で争いになってしまいお困りの方は,今後の子育ての環境のあり方については,ご家族・親戚や親しい友人や勤務先に,法律的な手続その他については弁護士に,それぞれ相談されることとお勧めします。

以 上


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「離婚」って何?【その4】

前回に引き続き「離婚」について,今回は,離婚と「親権」という,離婚に関して最も悩ましい問題のひとつについてお話しします。

「親権」とは,親として子を監護,教育する権利義務の集まりのことをいいます。親権の具体的な内容としては,身上監護権(義務)と財産管理権(義務)に分かれるとされます。

民法上は,身上監護権の表れとして,居所指定権(821条),懲戒権(822条),職業許可権(823条)等が,また,財産管理権の表れとして,子の財産の管理権及び代理権(824条)が,それぞれ定められています。親が,子をいつくしみ,しつけをしながら心身共に健康に成長させるためには,こうした権限が必要だと考えられたからです。なお,いずれも「権利(権限)」の形で定められていますが,これらは親としての「義務」でもあるとされます。

こうした権利義務を有する親権者に「誰」がなるのかについて,民法上は,父母の婚姻中は「父母」がなるとされ(818条1項),この場合は父母の共同親権となります(818条3項)。

他方で,父母が離婚するときは,「父母の一方」が親権者となるとされます(819条1項・2項・5項)。協議離婚をする際に提出する離婚届の記載欄にも,離婚に伴ない(それぞれの)子ども(達)の親権者が父母のどちらになるかについての項目があります。つまり,未成年の子ども(達)がいる夫婦が離婚するにあたっては,夫婦の「どちらか」に親権者を決めなければならないのです。

悩ましいのは,「夫婦間で離婚については合意に至っているが,親権者をどう定めるかについて争いがある」という場合です。こうしたご相談は,私の所にも多く寄せられます。

結論をいうと,こうした場合は,簡単には離婚はできないことになります。というのは,親権者が決まらないと,協議離婚をしようとしても離婚届を役所で受理してもらえないからです。

その場合,どうすればよいかというと…回答としては,離婚にあたっては夫婦でよく話し合って,親権者についての取り決めをきちんとするのが一番ということになります。とはいえ,「夫婦間で離婚については合意に至っているが,親権者をどう定めるかについて争いがある」というご相談のうち,かなり多くのケースは,夫婦の一方が実は①(感情的なしこりを含め)何らかの理由で離婚をしたくないと思っていたり,②離婚については実際に合意しているものの,親権を相手方に認めると発生する養育費や,その他離婚に伴ない発生しうる財産分与や慰謝料といったものの支払いはしたくないと思っていたりする等,実質的には離婚(に伴なう全体的な紛争の解決)について合意に至っていないケースであるように思えます。

そうした場合には,結局,調停や裁判の手続を用いて解決を目指さなければならない可能性が高くなってきます。

具体的には,家庭裁判所に調停【夫婦関係調整(離婚)の調停】を申し立て,裁判所(調停委員)の仲立ちを得て話し合い,その中で,離婚のみならず親権者についても夫婦で合意した内容を調停に反映させる必要があります。調停でも親権者の定めについての合意ができない場合には,親権者について父母のどちらになるかの審判が出されることになります(819条1項・5項)。

あるいは,調停(離婚調停)を不成立として終了させた上で,改めて家庭裁判所に離婚の訴えを提起し,その際に(養育費や財産分与や慰謝料とともに)親権者の定めについても合わせて請求すると,その訴訟の中で,合意ができれは和解によって,最後まで合意ができなければ最終的には判決によって,父母のどちらが親権者になるかが決められます(819条2項)。

つまり,大変な時間と労力が必要となる可能性が高くなります。

このテーマについては,次号も引き続きお話したいと思います。

以 上


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「離婚」って何?【その4】

前回に引き続き「離婚」について,今回は,離婚に伴う「」や「戸籍」の変動について見てみましょう。

まず,離婚の効果である夫婦関係の解消に伴う(姓のこと)の変動についてお話しすると,民法上,婚姻の際に夫又は妻の氏を名乗った者(現状では,妻が夫の氏を名乗っているケースが多いと思われます…その場合は妻)は,離婚により,そのままにしていると自動的に婚姻前の氏に戻ります。

もっとも,社会生活をする上で必要があることに配慮し,離婚の日から3ヶ月以内であれば,戸籍法に定める届出をすることで,婚姻時の氏を名乗り続けることができようになっています。ここにいう「社会生活をする上で必要がある」とは,例えば妻が離婚に伴い未成年の子を監護養育していく際に,妻(母)と子で氏が異なってしまうと困る,というケースがあると思われます。

他方,同じく離婚によって母と子で氏が異なってしまっては困る,かといって,自分が婚姻中の氏を名乗り続けたくはない,という場合はどうすべきでしょうか。その場合は,子(子が15歳未満であればその親権者)が,家庭裁判所に申立て(子の氏の変更許可申立て)をし,裁判所の許可を得られれば,子が母の氏を名乗ることができるようになります。

次に,離婚の効果である夫婦関係の解消に伴う戸籍の変動についてお話しすると,多くのケースで,離婚に伴い戸籍が変動するのは,婚姻の際に夫の氏を名乗った妻の方です(こうしたケースでは,夫が戸籍の筆頭者になっています。)。その場合,妻は,婚姻前の戸籍に入る(復籍する)か,新戸籍を作ることになります。

ところで,戸籍法では「父の氏を称する子は父の戸籍に入り,母の氏を称する子は母の戸籍に入る」とされているのですが,ここで気をつけたいのは,妻(母)が離婚に伴い子を監護養育しても,また,子の親権者となった場合でも,それによって自動的に子が夫(父)の戸籍から妻(母)の戸籍に移ることはない,ということです。その場合,子が妻(母)の戸籍に入るためには,やはり家庭裁判所に申立て(子の氏の変更許可申立て)をし,裁判所の許可を得て,子の称する氏を母の氏に変更した上で,(裁判所の許可書をもって)市町村役場に入籍届を提出する必要があります。

もうひとつ気をつけたいことは,離婚後の妻(母)が婚姻時の氏を名乗り続けることで,その氏が婚姻中の氏と同じであっても,子が離婚後の妻(母)の戸籍に入るためには、さきほどの「子の氏の変更許可申立て→入籍届」の手続が必要だということです。つまり,妻(母)が婚姻時の氏を名乗り続ける場合でも,その氏はあくまで「母の氏」であって,子は元々の「父の氏」を名乗っている状態である,ということです。

…といっても,文にすると,なかなかピンと来ませんね。

もう少し分かりやすく,もう少し詳しく知りたいという方は,弁護士に相談されてみてはいかがでしょうか。また,戸籍のことについては,インターネットで各市町村のホームページを見ると,わかりやすく説明してあるものがあります。

以 上


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「離婚」って何?【その2】

前回に引き続き,「離婚」についてです。今回は,離婚についてのデータを見てみましょう。

まず,厚生労働省の統計を見ますと,日本全国で離婚した夫婦(離婚件数)は,おととし平成24年は23万5406組あるそうです。巷では,『日本では2分ちょっとに1組の割合で夫婦が離婚しています。』などという説明がされることがあります(1年が60秒×60分×24時間×365日=3153万6000秒なので,これを離婚件数で割り算すると,2分ちょっとになる,ということなのだと思います)。

離婚件数は,昭和45年(今から44年前)は9万5937件だったのが,その後ほぼ右肩上がりで増え続け,平成12年には3倍の28万9836件に達したのですが,その後は,毎年減少や横ばいを繰り返し,現在に至っているようです。

次に,裁判所の統計を見ますと,平成23年の1年間に全国の家庭裁判所で受け付けられた人事訴訟事件のうち,離婚に関する訴訟事件は1万0045件であり,これは全体(1万1389件)の88.2%を占めるそうです。

そして,離婚に関する事件が訴訟(裁判)に持ち込まれると,その審理には平均して11.1ヶ月がかかり,当事者双方が関与して最終的に判決が出された事件については,解決までに平均して15.5ヶ月(1年3~4ヶ月)がかかっているとのことです。

私の経験からしても,ご夫婦お互いに言い分があり,争われる(お互いが譲れない)ポイントがあるケースでは,裁判になってから1年前後かかってしまっていることが少なくないと思います。

さらに,離婚については訴訟の前段階とされる調停についてみますと,平成24年の1年間に全国の家庭裁判所で受け付けられた離婚調停の件数は,4万8771件あり,平均的には3~5回の話し合いの期日(3~6ヶ月の期間)を経た結果,そのうち約半分の2万4089件が,調停成立により離婚に至っているようです。

なお,離婚については調停が訴訟の前段階と言いましたが,これは,離婚や認知など,家事調停を行うことができる事件については,原則として訴訟を起こす前に調停の申立てをしなければならない(家事事件手続法257条。「調停前置主義」)ためです。

こうしたデータを見ての印象ですが,離婚件数や訴訟・調停の件数については,私は「離婚や紛争の数が多いからよくない」とか,「少ない昔の方がいい時代だった」とはいえないと思います。現代の方が,夫婦お互いが「離婚したい」という意思を明らかにしやすい社会環境に変わってきているという考え方もできますし,特に女性の社会進出による収入の確保やその増加あるいは社会保障の発展により,昔はとても多かったと思われる「離婚したくても経済的に自立できないから離婚できない」というケースが随分と減ってきた結果であるともいえるのではないか,と思っています。

とはいえ,ひとたび「離婚」するとなると,未成年のお子さんがいる場合にはその親権養育費面会交流をどう取り決めるか,結婚後夫婦で築いてきた財産がある場合にこれをどう分けるか(財産分与),相手方に慰謝料を求めるか,お互いの年金の点数をどうするか(年金分割)…といった,お子さんの幸せを第一に考えながらご自分の今後の人生のあり方を決めなければならないという,実に重い悩ましい問題への対応が必要になります。

そうした中で,実にたくさんの人が,離婚を求める決断をするかどうかを悩み,そのうち毎年20万組以上の夫婦が協議で離婚し,あるいは調停や裁判といった手続を経てかなりの長い時間とエネルギーをかけて,離婚に向けての話し合いをしていることがわかります。

こうしたデータからも,離婚の問題が,私達の生活に身近で,しかも重要な問題であることがわかります。

以 上


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「離婚」って何?【その1】

さて,今回のテーマは,「離婚」についてです。

私は,弁護士として,毎日のように主に人吉球磨地域の皆様から実に色々な種類の法律相談をお受けする機会があるのですが,そうした経験からお話しすると,お受けする法律相談のうち,離婚に関する相談,すなわち離婚やそれに伴う子どもの親権・監護権のこと,離婚前後の婚姻費用養育費の分担のこと,それに離婚に伴う財産分与慰謝料のことについての相談の数は,大変に多いです。

一言で「離婚に関する相談」といっても,その内容は実に様々です。また,その中でも調停や訴訟による紛争解決が必要と判断されるケースは,全体からすれば多くはないかも知れません。いずれにしても,私は,相談をお聞きするたびに,ご主人や奥さんと離婚すべきか,あるいは離婚するためにはどうしたらいいか,離婚する場合にはお子さんのことをどうしたらいいか等について悩みながら,仕事や子育て等の日々の生活に向き合っている方がこんなに多いのかという思いを新たにしていますし,離婚問題とはドラマの中の話ではなく,日常生活の中やごく身近にある問題なのだと感じています。

まず,離婚とは何かですが,『法律学小辞典』では「生存中の夫婦が婚姻関係を解消すること」と説明されています。言い換えると,「当事者が夫婦関係という法律関係を解消し,これに伴う諸種の法律効果を包括的に発生・消滅させる行為であって,戸籍法に定める届出がなされないとその効力が発生しないもの。」ということになるかと思います。

次に,離婚の効果ですが,まずは夫婦関係の解消であり,『「結婚(婚姻)」って何?(その1)』(平成25年11月号)でお話しした,「夫婦」という特別な関係を解消して,他人に戻ることです。具体的には,離婚により,「貞操義務」や「同居義務」や「協力扶助義務」といった,夫婦として相手方(「配偶者」)に対し負うべき義務はなくなりますし,相手方に対する「婚姻費用」の分担もなくなります(もっとも,子どもがいる場合の「養育費」の負担の問題は,引き続き生じます。)。

次に,夫婦関係の解消に伴うの変動戸籍の変動の効果も生じます。これについては,次回にお話しさせていただきます。

また,離婚の種類ですが,①協議離婚,②調停離婚,③審判離婚,④和解離婚,⑤認諾離婚,⑥判決離婚の6種類があります(『離婚届』に「離婚の種別」として記載されています。)。氏の変動や戸籍の変動のお話に続き,主に協議離婚と判決離婚を念頭に,離婚に伴う「?」をお話ししていく予定です。

以 上


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「結婚(婚姻)」って何?【その3】

今回は,「結婚(婚姻)」の手前のものである「婚約」についてお話しします。

「婚約」を「法律学小辞典」で調べてみると,「将来婚姻をすることの約束」と書かれていました。「結婚することの予約」とイメージすれば,分かりやすいでしょうか。

婚約したことが認められると,その効果として,どのようなものが認められるでしょうか。これまでお話しした結婚(婚姻)の場合と比較して,見てみましょう。

この点,結婚(婚姻)して夫婦になった場合に当事者に「同居義務」が発生するのと同じように,いわば「結婚をする義務」を認め,これを強制できるのでしょうか。婚約が「婚姻の予約」(契約の一種)であることからは,契約としての婚姻の履行を強制できるという結論にもなりそうですが,結婚(婚姻)は,あくまで当事者の自由意思に基づきなされるべきものと考えられている(日本国憲法第24条1項に「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」と明示されているのは,そうした考えを表したものと思われます。)ことから,裁判によっても結婚すること自体を強制したり,婚約不履行(婚約破棄)に対して強制執行をすることは,いずれも認められないとされます。

他方で,婚約不履行(婚約破棄)については,やむを得ない事情(婚約破棄したことについて責められないような具体的事情)がない限り,契約違反として,一定の責任(不履行や破棄によって相手方がこうむった損害賠償する義務)は発生し得ます。ここにいう「損害」とは,いろいろなものが考えられますが,例えば,①結婚することを前提として発生した費用(結婚式や披露宴を行うための式場へのキャンセル料や新婚旅行のキャンセル料,それに新世帯を前提に購入した家具類の費用等)や,②相手方が結婚を前提に退職してしまったような場合に,その人が退職せずに働いていたら得られただろう利益(「逸失利益」と言います。)の一定期間分,それに,③婚約を不当に破棄されたことで精神的な苦痛を受けたことに対する慰謝料が,「損害」となり得るでしょう(②や③は,その人その人の具体的事情によりその金額が変わり得るでしょうし,また争いになりやすいと思われます。)。

また,婚約破棄によって婚姻が成立していない場合には,いわゆる結納金は返還してもらえるというのが一般的な考え方です。結納とは,最高裁判例によれば,「婚約の成立を確証し,あわせて,婚姻が成立した場合に当事者ないし当事者両家間の情誼を厚くする目的で授受される一種の贈与」とされていますので,結婚(ここでは,届出を欠く内縁関係も含むと思われます。)が成立しなければ,結納はその目的を達していないと考えられるからです。

では,こうした効果を生じる婚約は,どのような場合になされたと認められるのでしょうか。婚約も,一種の契約であり,契約に基づく権利を主張するのですから,争いになる場合には,やはり証拠による裏づけが必要になります。では,婚約を裏づける証拠とは,どんなものがあるでしょうか?

一番分かりやすいのは,①「婚約指輪」としての指輪の取交しをしていることでしょうか。それに,先ほど出てきた②結納金の受渡しをしているとか,お互いの親同士で結納の趣旨の会合をもった記録があるとか,③結婚式披露宴会場を(双方の同意のもとで)予約したり打合せをした記録があるとか,④相手方の出席する会合に出席して,そこで「婚約者(場合によっては配偶者)」として紹介をされていたとか,⑤結婚をすることを前提とするやり取り(例えば,結婚式や披露宴,新婚旅行の内容やスケジュール等についての会話等)について,何等かの記録(例えば電子メールや携帯メールやラインなど)が残っている場合も,証拠にはなり得ると思われます。

婚約破棄をした当の本人がご自分の落ち度を認めていれば,そうした証拠はいらないという考え方もあるかも知れませんが,その場合でも,「婚約破棄を認めたこと」を明らかにする書面に署名捺印してもらった方がよいと思われます。後で「そんなこと認めていない。」と言われて,困らないように…。

こうしたことでお困りで,もう少し詳しく聞きたいな,という方は,弁護士にご相談ください。

以 上


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「結婚(婚姻)」って何?【その2】

今回は,「結婚(婚姻)」に近いものである「内縁」についてお話しします。

「内縁」を「法律学小辞典」で調べてみると,「社会的事実としては,夫婦共同生活体の実質を備えながら,婚姻の届出を欠くために法律上の婚姻とは認められない男女の関係」と書かれていました。

前回お話しした「結婚(婚姻)」との関係で説明すると,内縁とは「当事者がお互いに夫婦関係という法律関係に入っているが,戸籍法に定める届出がなされていないため,婚姻としての保護が与えられないもの。」という説明になるかと思われます。いわば『結婚(婚姻)マイナス婚姻届出』の状態であるとイメージしてもらえると,分かりやすいかも知れません。

このように,内縁は,あくまで「実態としては夫婦である」状態(①お互いが婚姻の意思をもっており,かつ②現に夫婦共同生活を営んでいること)を指します。そこで,①の点で,婚姻の意思がないいわゆる「愛人」関係(例えば法律上の配偶者がいる男性が,他の女性に対して住居や金銭を与えたりしながら性的関係を維持しているものの,婚姻の意思はない関係)や,いわゆる「同棲」関係(共同生活はしているものの,その時点で婚姻の意思がない関係)とは異なりますし,また,②の点で,いわゆる「婚約」(将来の婚姻の約束をすること)とは異なることになります。

内縁は,①お互いが婚姻の意思をもっており,かつ②現に夫婦共同生活を営んでおり実態としては夫婦の関係にある点では,法律上の婚姻と何ら変わりはないので,可能な限り(婚姻届出の本質や戸籍の記載と密接不可分なものを除き),法律上の婚姻関係に準じて,婚姻関係で認められる効果(保護)を同じく認める(準用する)扱いとされています。

詳しく言うと,前回お話しした,夫婦間で発生する「同居義務」や「協力扶助義務」を負い,また共同生活の費用を分担するものとされます。のみならず,内縁当事者も他方当事者に対して「貞操義務」を負います。

次に,追ってお話しする機会があると思いますが,関係の解消(法律上の婚姻にいう「離婚」にあたります。)に際して,お互い築いてきた財産があった場合にはこれを分け合うこと(これを「財産分与」といいます。)も認められていますし,相手方に不貞行為等の事情がある場合には,慰謝料請求が認められることもあります。

さらに,各種社会保障法の取扱い(扶養手当,健康保険,労働災害の遺族補償年金,公営住宅・公団住宅の入居者資格etc)においても,配偶者につき「事実上婚姻関係と同様の事情にある者」を含むとし,内縁関係の当事者と配偶者とで取扱いが同じくされることが多くなっています。

他方で,内縁は,法律上の婚姻の要件である婚姻届出がされていないことから,婚姻届出の本質や戸籍の記載と密接不可分な点について,婚姻した夫婦であれば認められる効果が,内縁当事者では認められないことがあります。

その中で一番大きいのは,子どもの関係と,相続の関係です。

詳しく言うと,婚姻関係にない男女の間に生まれた子は,父親とは別々の戸籍(母親の戸籍)に入り,父親から「認知」されない限り父親とは法律上の親子関係(「非嫡出子」という。)が認められないという不利益を受けます(なお,法律上の婚姻における「嫡出推定規定(民法772条1項)」は,内縁関係にも類推されるのですが,これはあくまで事実上の推定にすぎないため,父親が認知をしない場合には,子どもの側から「認知の調停」を申し立てたり「認知の訴え」を提起する必要があります。)。

また,内縁の一方当事者が死亡した場合,他方当事者は,相続権を有しません。このことは,内縁関係がどれだけ長期間継続していても,また内縁当事者間の愛情や信頼がどれだけ強くても,変わりありません。死亡した内縁の一方当事者に相続人がただの一人もいない場合に,いわゆる「特別縁故者」としてその財産の分与の請求ができるのみです。これまで面識・交流のなかった甥や姪を含め,一人でも相続人がいる場合には,相続財産はその相続人が取得することになります。

こうした不利益を避けたい場合には,予め「遺言」により,財産を与えてもらう等の対策をして(もらって)おく必要があります(「遺言」についても,追ってお話しする機会があると思います。)。

また,内縁は,婚姻届出をしていないことから,外形的には夫婦(婚姻)関係にあるかはわかりません。そこで,内縁関係で認められる効果(保護)を主張する側が,内縁関係(実態としては夫婦であること)を立証していかなければならないという負担を負うことになります。これも,けっこう大変です。

次号では,「婚約」について,お話しする予定です。

以 上


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「結婚(婚姻)」って何?【その1】

さて,今回のテーマは,その「結婚(婚姻)」についてです。

「結婚(婚姻)とは何か,説明しなさい。」と言われると,難しいです。

日本国憲法(24条1項)や民法(731条~771条等)では,「結婚(けっこん)」という言葉でなく「婚姻(こんいん)」という言葉が使われています。

そこで,広辞苑で「婚姻」という言葉を引いてみると,『結婚すること。夫婦となること。一対の男女の継続的な性的結合を基礎とした社会的経済的結合で,その間に生まれた子供が嫡出子として認められる関係。民法上は,戸籍法に従って届け出た場合に成立する。』と書かれています。

…と説明されても,ピンとはこないですね。でも,結婚(婚姻)により生じる効果のうち重要なものを意識すると,おそらくこの説明が正しいのだと思われます。

民法上の「結婚(婚姻)」をあえて説明すると,「当事者がお互いに夫婦関係という法律関係に入ることを合意する契約であって,戸籍法に定める届出がなされないとその効力が発生しないもの。」ということになるかなと思います。

皆さんもご存知のように,元々は他人であった男女が「結婚(婚姻)」して「夫婦」になると,他人ではない特別な関係になります。

具体的には,夫婦は新たに戸籍を作り,婚姻の際に夫又は妻の氏を名乗るものとされますし,またお互いに相手方(「配偶者」といいます。)に対して「同居義務」(一緒に生活する義務)や「協力扶助義務(生活保持義務)」(協力し助け合う義務)を負い,特約がない限り資産・収入その他の事情に応じ婚姻費用を分担するものとされます。のみならず,夫婦は配偶者に対して「貞操義務」を負い,配偶者以外の男女との間で不貞な行為をしてはいけない(不貞行為は,刑事罰の対象にはならないが,民法上の不法行為として損害賠償責任が発生し得る。)とされます。

また,婚姻関係にない男女の間に生まれた子(「非嫡出子」とか「婚外子」という。)が,父親とは別々の戸籍(母親の戸籍)に入り,一定の場合を除き父親から「認知」されない限り父親とは法律上の親子関係が認められない等の不利益を受けるのに対し,法律上の婚姻関係にある男女を父母として生まれた子(「嫡出子」)はそのようなことはありません。交際していた男女が,子どもの妊娠を機に婚姻(婚姻の届出)を決断することが少なくないのは,こうした子どもとの関係での婚姻の効果を重視してのことと思われます。

これらの効果は,いずれも夫婦としての共同生活を続けていく上で守られることが必要なものとして定められているものですが,いずれも重要なものです。そして,こうした重要な効果が発生する行為である婚姻については,法律(戸籍法)で定めた方式に従ってなされたものだけが,婚姻として認められる(こうした建前を「法律婚主義」といいます。)ものとされました。具体的には,市町村役場に所定の「婚姻届」(証人2名の署名捺印が必要です。)を作成提出し,その内容のチェックを受け,受理されて初めて,婚姻として認められます。

ところで,「結婚(婚姻)」と似ているけれども違うものとして「内縁」というものがあります。「結婚(婚姻)」と「内縁」はどこが同じでどこが違うのか?はたまたいわゆる「同棲」との違いは?

これについては,また次号以降にお話します。

以 上


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「契約(けいやく)」って何?【その2】

さて,今回は,「契約」の続きです。

前回,Aさん(パート勤務の兼業主婦。2児の母)のある1日の生活から,日々の生活でどのような「契約」がなされているかをイメージしました。

その中で,①旅客運送契約(電車・バス等の利用),②雇用契約(パート勤務),③(消費)寄託契約(銀行口座への預金),④各種供給契約(水道・電気・ガス等の水道光熱費の供給)や賃貸借契約(アパートの賃借)や(金銭)消費貸借契約(カードローンによるお金の借入れ),⑤売買契約(スーパー等での買い物),⑥継続的役務提供契約(例えば学習塾や英会話教室での授業を受けること),⑦贈与契約(お中元やプレゼント)等々…Aさんは,主なものだけでも実にたくさんの契約関係の中で生活しているということをお話ししました。

そして,Aさんをはじめとする私達は,日常の社会生活を送る中で,目に見えない無数の相手方と『赤い糸』ならぬ『契約の糸(鎖)』でつながっていること,こうした『契約の糸(鎖)』は,一度きちんと結ばれてしまうと,簡単に断ち切ることができないこと,をそれぞれお話しました。

「簡単に断ち切ることができない」というのは,一度きちんと契約が結ばれると,それによって発生した契約の双方当事者の義務(Aさんの立場から見ると,例えば②の勤務先に対し労働力を提供する義務や④のアパートをきちんと使ったりその家賃を支払ったりする義務,⑤の代金及び⑥の授業料等を支払う義務等)については,原則として,何か一定の理由がある場合でないと,相手方との合意がない中で一方的にこれを解消することはできない,ということです。

何か「一定の理由」は,いろいろな法律に定められています。各種の契約に共通する基本的なものとしては,「契約の相手方が,その契約における(重要な)約束を守ってくれないため,その契約関係に入っていることの目的を達成できないこと」(「債務不履行」といいます)や,「契約を結んだ時に,重要な勘違い(「錯誤」といいます)があったり,その相手方からだまされたり(「詐欺」といいます),強く迫られたり(「強迫」といいます)したため,こうした事情がなかったらしなかった契約を結んでしまった。」という場合等に限られます。

反対にいうと,Aさんは,例えば『②仕事をする気になれないから,今日は仕事を休もう』とか,『④最近大家さんとけんかして腹が立ったから,家賃を支払うのをやめたい』とか,『「④今月は出費が大きかったから,今月分のローンは支払わないでおこう』とか,『⑤ある物を買ったけれど,気が変わっていらなくなったから,返品してお金を返してもらおう』等という理由で,一方的に(=パート先や大家さんや銀行や売主と合意したり,認めてもらったりしない中で)契約を解消したり,その義務の実行を拒絶することは,できない(=相手方に対する「債務不履行」となってしまう)ということになります。

こうした原則に対して,特別の法律により,例外的に一定の場合には契約の解消が認められたり,反対に契約の解消自体がさらに難しくなっていたりするケースもあります。例えば,消費者保護のため制定された法律(特定商取引法消費者契約法等)により,⑥の継続的役務提供契約を含む一定の取引については,一定の場合にはいわゆる「クーリングオフ」や「中途解約」や「取消」が認められることで,契約を解消できる場合があります。他方で,労働者保護のため制定された各種法律(労働契約法労働基準法等)により,②の雇用契約につき,解雇(雇用主からの契約の解消)労働条件の切下げ制限されています。また,借主(生活者)保護のため制定された法律(借地借家法)により,④のうち借地・借家の賃貸借契約については,契約の解除や更新拒絶等の借主に不利な条件変更制限されています。

以上のように,一定の例外はあるものの,『契約の糸(鎖)』は,一度きちんと結ばれてしまうと簡単に断ち切ることができない,という原則は,是非覚えておかれてください。

他方で,こうした契約に基づく主張を相手方にしていこうとする場合には,以前にご説明したように,その裏づけとして,何らかの証拠が必要となると思っておいた方がよいです。例えば,そもそも契約の内容を定めた「契約書」がないと,契約の両当事者がお互いにどのような権利・義務を負うのかがわかりにくくなりますし,義務の実行として支払いをしたことの裏づけとして「領収証」「レシート」をもらったり,せめてご自分で通帳に記帳することで持っていないと,トラブルになったときにはその立証が難しくなります。

こうした契約についてのトラブルは,高額な商品を多数回の分割払いで購入する場合に,特に表れやすくなります。『本当は必要でなかった』,『買った商品に問題がある』,『買った時の説明と違う』と思っても,契約を解消できず,高額のローンが残ってしまう,というケースです。

そういうトラブルになってしまった,あるいはなりそうだという場合は,できるだけ早く弁護士に相談されることをお勧めします(仮に契約を結んでしまった後でも,契約内容その他の事情により,最終的には支払いを拒絶する等の解決が図れることもありますので,まずは相談を。)。

その上で,このコラムを読まれた皆さんにおかれては,セールスマンの説明を受けて(高額な)商品を買おうと思った時も,できれば「契約書」にサインをするその前に,この「契約書」にサインしたら自分にはどのような義務や負担が生じることになるのか,最悪の場合自分がどうなるのかについて,もう一度だけ考えていただければと思います。そして,それがご自分ではよく分からないという時には,できるだけ早く弁護士相談されることをお勧めします。『法律相談を受けてよかったです。うっかり何百万円・何千万円もの借金を抱えてしまわずに済みました』というケースも,決して稀ではありませんので…。

以 上


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「契約(けいやく)」って何?【その1】

さて,今回は,「契約」についてです。

有斐閣の「法律学小辞典」には,「契約」の意義として,『互いに対立する複数の意思表示(例えば売買では売りたい・買いたいという意思表示)の合致によって成立する法律行為』などと書かれています。

ただ,そもそも「意思表示」とか「法律行為」という言葉がよく分かりませんし(私は大学で初めてこの言葉にお目にかかった記憶です。「法律行為」については,「何らかの権利・義務が発生するもの」くらいに覚えておかれると,間違いはないでしょう。),契約の定義や意義を頭に入れることそれ自体は,あまり実りのあることではないかも知れません。

なお「契約」というと,あるいは皆さんは,読めないような細かい文字のびっしり印字された「契約書」をイメージされるかも知れません。こうした「契約書」は,「契約」の存在や内容を示す「証拠」なのです。

…いずれにしてもわかりにくいので,Aさん(パート勤務の兼業主婦。2児の母)の1日の生活から,「契約」というものをイメージしてみましょう。

『Aさんは,朝,夫と上の子,下の子を送り出すとともに自宅を出て,電車に乗ってパート勤務先の会社に行き,いつものように仕事を始めました。

前の日に夫のお給料が出ていたので,お昼休みになると休み時間中に最寄りの銀行に並んで,水道光熱費・家族で住んでいるアパートの家賃・銀行カードローンの支払いをするために預かったお金を夫の預金口座に入金をしてきました。

午後5時に勤務を終えて退社して電車に乗って自宅に戻った後,Aさんは今度は自家用車に乗って上の子を学習塾まで,下の子を英会話教室までそれぞれ送っていき,その帰りにスーパーで買い物をしてから自宅に戻りました。

子ども達を迎えに行く合間に夫と一緒に軽い夕食をとっていたところ,夫の勤務先からお中元のビールが届きました。』

例えばこんな感じでしょうか。

ここで,Aさん夫婦は,こうした一見すると平凡なようにも見える1日の生活の中で,実にさまざまな契約関係に入っています。例えば…

①電車(バス・タクシー)を利用している場合には,Aさんは鉄道会社との間で旅客運送契約の関係に入っているはずです。
②次に,Aさんは勤務先と(パートタイマーとしての)雇用契約を結んでおり,それに基づき労働力を時間単位で提供し,お給料をいただいている関係に入っていると思われます。
③お昼休みにAさんが銀行の預金口座・通帳・キャッシュカードを作ってお金を入金する前提として,Aさんはその銀行と(消費)寄託契約を結んでいるはずです。
④各種支払いのうち,水道高熱費については(水道・電気・ガス会社との)各種供給契約に基づき供給を得たことの代金の支払いでしょうし,アパートの家賃の支払いについては,(夫が)家主との間で結んだ建物賃貸借契約に基づきアパートを自宅として使用収益していることの1ヶ月ごとの対価としての支払いでしょう。また,銀行カードローンの支払いについては,(夫が)その銀行との間で結んだ(金銭)消費貸借契約に基づき借入れをしたお金(借金)の1ヶ月ごとの返済としての支払いでしょう。
⑤ スーパーで買い物をする際には,その場でAさんがスーパーと購入する商品についての売買契約を締結し,その場で代金決済をしているのでしょう(カード利用の場合は後払いになります。)。
⑥学習塾や英会話教室に通わせているということは,Aさん(あるいは夫)が継続的役務提供契約といって,一定期間一定のサービスの提供を受ける代わりに月謝等の費用の支払いをする契約を塾や教室と結んでいるはずです。
⑦ なお,お中元については,これを「契約」といわれるとピンときませんが,一般的には贈与契約といって,Aさんの夫とその取引先とは,ある物(ビール)を無償(タダ。対価なし)であげる・もらう契約関係に入っているという評価になるのだと思われます。

…などといろいろ書きましたが,ここでお伝えしたいことは,何となくお分かりのように,皆さんは社会生活を送る中で,目に見えない無数の相手方と『赤い糸』ならぬ『契約の糸(鎖)』でつながっているということです。そして,こうした『契約の糸(鎖)』は,一度きちんと結ばれてしまうと,簡単に断ち切ることができない,ということです。

以 上


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「証拠(しょうこ)」って何?【その2】

さて今回は,「証拠」の続きです。

前回は,証拠の意味(『訴訟法上,判決の基礎たる事実の存否につき裁判官の判断の根拠となるような資料』等)とか,証拠の具体例のお話をしました。

「借用書」,「領収証」,「契約書」,「診断書」「携帯メール」から,「血の付いたナイフ」,それに目撃証人の証言等々,証拠となるものには実にいろいろな種類があることをお話ししました。

そして,合わせて前回(6月号)でもお話ししたとおり,皆さんに覚えていただきたいことは,「自分に権利があることや,義務がない(なくなった)ことなど,相手方や周りに主張したい(主張する必要がある)ことがあるときは,後で困らないよう,必ずその裏付けとなる『証拠』を残しておきましょう。」ということです。

前回,自分に権利があることや,反対に義務がない(なくなった)ことについては,面倒でもその都度きちんと証拠を作っておかないと,後になって思いがけないトラブルに巻き込まれ,大変困ったことになるかも知れないので,注意が必要です,と言いました。

これをもう少し具体的に,「裁判」との関係でいいますと,実は裁判のルールとして,「自分に有利な効果を主張したい人は,その有利な効果を発生させるために必要な事実があることを証明しなければならない。仮にそうした証明ができなかった事実は,裁判上はいわば『ないもの』と扱われ,結局その有利な効果を認めてもらえなくなる。」というルールがあります。例えば,借りていたお金を返す人は,お金を返す際に貸主から署名捺印をしてもらった「領収証」等をもらっておかないと,「その借金を返した事実」の証明ができなくなり,その結果,裁判上は「その借金を返していない」のと同じに扱われてしまう危険性が大きくなってしまうのです。もちろん,領収証以外の証拠,例えばその借金の返済として貸主にお金を渡した一部始終の様子を見ていた立会人がいたら,その立会人が証人として証言してもらう方法により,「その借金を返した事実」を証明できることもあるかも知れません。しかし,そうした立会人がいることはまれですし,立会人がいても,その一部のやり取りしか見ていなかったら,「その借金を返したこと」の証拠にはならないかも知れません。このように,きちんとした領収証を作成しておく以外の方法で「その借金を返した事実」を立証することは,実際にはすごく難しい(場合によっては絶望的な)ことが多いのです。

仮に裁判に持ち込まれても権利が認められないとなれば…ということで,証拠がない場合には,裁判の前の段階の交渉においても,相手方がこちらの言い分を認める可能性は小さくなります。

また,ある相手方から犯罪被害を受けたとして警察に相談するにしても,実際にその相手方に対する捜査を始めてもらうためには,被害に遭ったこと(その相手方につき犯罪行為が疑われる事実)を,一定の証拠に基づきある程度は証明する必要があるでしょう。そうしたある程度の証明もできない場合には,相手方に犯罪事実の疑いがあるかどうかわからない,だから警察もおいそれとは動けない,という回答になる可能性が高くなります。

このようなお話をすると,皆さんの中には割り切れない気持ちになる方もいるかも知れません。特に,証拠がない(作らなかった又は失くした)ためにあるはずの権利を認めてもらえなかった経験をされた方は,例えば「神様は見てるのに…」という,やるせない思いを抱かれているかもしれません。

そうした思いはもっともだと思うのですが,ここに「裁判」の守備範囲というものがあります。すなわち,「裁判所(裁判官)」は,「神様」でも「エンマ大王」でも,また「遠山の金さん」でもない,ということです。

前々回にて,「裁判所」とは,ある人が持ち込んだ紛争につき,「法律」と「証拠」に基づいて,権利の有無等を最終的に裁判官に決めてもらう場所だということをお話ししました。このように紛争を最終的に解決するといっても,裁判官は「神様」や「エンマ大王」や「遠山の金さん」のように何でもお見通しといった超人的な力があるわけでも,また昔の「王様」のように(革命でも起きない限り)何でも(人を死刑にすることすら)気分次第で決められる権力があるわけでもありません。そういう立場の「裁判官」が,どういう方法で紛争を解決するかというと,自分の「ひらめき」とか「人間関係」とか「好き嫌い」とか「見た目」とか「周りの噂」とかで決めるのではなく,まさに『証拠』から「事実」の有無を認定し,その「事実」に基づき「権利」の有無を判断するという方法をとります。こうした方法をとることによって,事実認定のプロであって「神様」や「王様」ではない「裁判官」の最終的な判断が,皆さんの納得のいく(場合によっては批判にさらされ是正され得る)ものとなるのです。そして,裁判の中で,きちんとした『証拠』から認定された「事実」に基づき認められれば,性別・年齢・出身・社会的地位・収入その他の財力・腕力の有無・大小に関わらず,その他の力関係に左右されず,等しく「裁判所」にて権利の存在を認めてもらえるという形で,紛争を解決してもらえる,ひいては,私達の権利(基本的人権)が保障されたり,法の下の平等が守られたりするのです。

以 上


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「証拠(しょうこ)」って何?【その1】

さて,今回は,「証拠」についてです。

三省堂の辞典「大辞林」で調べてみると,証拠とは,①『事実・真実であることを明らかにするよりどころとなる事や物。あかし。しるし。』②『訴訟法上,判決の基礎たる事実の存否につき裁判官の判断の根拠となるような資料』等と書かれていました。

①の意味では,たとえば結婚指輪は,夫婦の愛情のしるしという意味の証拠になるのかも知れません。もっとも,前号(5月号)で「裁判所は,『法律』と『証拠』に基づいて…」とお話しした『証拠』とは,②の意味を指しますので,ここでは,②の意味の「証拠」についてお話をしたいと思います。

一口に「証拠」といっても,実に,いろいろなものがあります。

時代劇で時々出てくる「証文」だとか,現代でいえば「借用書」などは,借金の存在やその内容が確かにあることを示す証拠でしょうし,「領収証」は,何らかの理由でお金を支払ったことを示す証拠といえるでしょう。細かい字がぎっしり印刷されている「○○契約書」は,そこにいろいろ書かれた内容の契約(権利義務を伴なった約束)があることの証拠になるでしょう。病院で出された「診断書」は,その人が何らかの理由で負傷をしたことを示す証拠ですし,例えば「携帯メール」で相手の人を脅迫したり,名誉を毀損したり,不倫のやり取りをしていたという場合,そのメールの内容が,そうした脅迫や名誉毀損や不貞行為の証拠になることもあります。

また,人が死んでいる現場に落ちていた,その人の血の付いたナイフは,状況(傷の状態とナイフの形状とが一致する場合等)によっては,それによってその人が殺されたことの証拠になり得るでしょう。

このような書類(「領収書」)とか物(血の付いたナイフ)だけではなく,ある事故やある犯罪を目撃した人(証人)の証言も,同じく証拠(その事故や犯罪の存在や,事故や犯罪を誰が起こしたかを示す証拠)となり得ます。

…などといろいろ書きましたが,皆さんにここでお伝えしたいことは,「自分に権利があることや,義務がない(なくなった)ことなど,相手方や周りに主張したい(主張する必要がある)ことがあるときは,後で困らないよう,必ずその裏付けとなる『証拠』を残しておきましょう。」ということです。

言い換えると,自分に権利があることや,反対に義務がない(なくなった)ことについては,面倒でもその都度きちんと証拠を作っておかないと,後になって思いがけないトラブルに巻き込まれ,大変困ったことになるかもしれないので,注意が必要です。

例えば,お金を貸す人は,お金を貸す際に借主から署名捺印をしてもらった「借用書」等をもらっておかないと,後で借主から「あなたにはお金なんて借りてないよ。だからあなたにお金を返す必要もありません。」と言われた時には,「お金を返してもらう権利」を証明できなくなる危険性が高くなります。反対に,借りたお金を返す人は,お金を返した際に貸主から署名捺印をしてもらった「領収証」等をもらっておかないと,後で貸主から「あなたからお金なんて返してもらってないよ。だからちゃんと返して。」と言われた時には,「お金を返したので,もう返す義務がないこと」を証明できなくなる可能性が高くなります。

「私の知り合いには,そんなムチャなことを言う人はいない。」「そんなトラブルに巻き込まれたら,詐欺だといって警察に相談すればいいのでは。」とお考えの方も,多くいるかも知れません。しかし,法律相談を受けて思うのは,こうした「信じられない」と思われるようなことが,証拠がないために,あっても不十分であるために,トラブルになってしまっていることが決して少なくない,ということです。

以 上


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「裁判所」って何?

裁判所というと,「そりゃ裁判する所でしょ。」とか,「普通の生活とは縁がない所よね。」とか,あるいは「訴えられたら呼び出されて行かなきゃならないこわ~い所?」といったイメージをお持ちの方もいるかも知れません(この仕事をする前の私は,そう思っていました。)。仕事がら毎週のように人吉の裁判所に足を運んでいる弁護士の私も,「裁判所って,どんな所?」と聞かれると,実はきちんとお答えするする自信がありません。

私のイメージでは,裁判所とは,持ち込まれた紛争(トラブル)を公平中立な立場から解決することを通じて,皆さんの権利や生活の安全の実現を目指す場(といっても,国家機関ですが)なのかな,と思っております。

『裁判』は,そうした紛争(トラブル)を解決する重要な方法のひとつです。

『裁判』とは,例えばAさんが持ち込んだ具体的な事件について,「法律」と「証拠」に基づいて,そのAさんが求める権利があるのかないのかを最終的に裁判官に決めてもらったり(これを「民事裁判」といいます。),あるいは国(検察官)が訴え出たように,本当にBさんがある犯罪を犯し,そのため一定の刑事責任を負わなければならないのかどうかを,「法律」と「証拠」に基づいて裁判官が最終的に判断する(これを「刑事裁判」といいます。「裁判員裁判」とは,これら刑事裁判のうち一定の重大な事件について,皆さんが裁判員としての参加を求められる裁判をいいます。)ことをいいます。

裁判所では,こうした『裁判』のほかにも,紛争解決の方法として,『調停』というメニューを用意しています。『調停』とは,裁判所の場所と人(調停委員)を仲立ちにした「話し合い」によって円満な紛争解決を目指す方法だと思ってもらえばよいと思います。皆さんも,「離婚調停」とか「遺産分割調停」といった言葉で聞きたことがおありかも知れません。『裁判』ですと,どうしても「勝った負けた」とか「白黒つける」といった争いのようになってしまうので,話し合いができるようであれば,『調停』は,紛争の円満解決のために有効な方法だと思います。

実は,裁判所には,もっともっと沢山の役割やお仕事があるのですが,まずはこうしたイメージをもってもらえればと思います。

裁判所では,裁判官や裁判所職員の方や調停委員その他の皆さんが,こうした紛争の解決のために必要なお仕事を,日々されています。裁判所の皆さんは,(少なくとも人吉の裁判所では)とても親切丁寧ですので,『裁判』や『調停』のルールとか,その利用方法とか,その際の決まりごと等については,安心して質問していただいてよいと思います。

ただし,紛争(トラブル)の「中身」の相談や質問(これは「法律相談」と言います。)については,裁判所の方はお答えできないので,これは弁護士にしてくださいね。

以 上


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