「契約(けいやく)」って何?【その1】

さて,今回は,「契約」についてです。

有斐閣の「法律学小辞典」には,「契約」の意義として,『互いに対立する複数の意思表示(例えば売買では売りたい・買いたいという意思表示)の合致によって成立する法律行為』などと書かれています。

ただ,そもそも「意思表示」とか「法律行為」という言葉がよく分かりませんし(私は大学で初めてこの言葉にお目にかかった記憶です。「法律行為」については,「何らかの権利・義務が発生するもの」くらいに覚えておかれると,間違いはないでしょう。),契約の定義や意義を頭に入れることそれ自体は,あまり実りのあることではないかも知れません。

なお「契約」というと,あるいは皆さんは,読めないような細かい文字のびっしり印字された「契約書」をイメージされるかも知れません。こうした「契約書」は,「契約」の存在や内容を示す「証拠」なのです。

…いずれにしてもわかりにくいので,Aさん(パート勤務の兼業主婦。2児の母)の1日の生活から,「契約」というものをイメージしてみましょう。

『Aさんは,朝,夫と上の子,下の子を送り出すとともに自宅を出て,電車に乗ってパート勤務先の会社に行き,いつものように仕事を始めました。

前の日に夫のお給料が出ていたので,お昼休みになると休み時間中に最寄りの銀行に並んで,水道光熱費・家族で住んでいるアパートの家賃・銀行カードローンの支払いをするために預かったお金を夫の預金口座に入金をしてきました。

午後5時に勤務を終えて退社して電車に乗って自宅に戻った後,Aさんは今度は自家用車に乗って上の子を学習塾まで,下の子を英会話教室までそれぞれ送っていき,その帰りにスーパーで買い物をしてから自宅に戻りました。

子ども達を迎えに行く合間に夫と一緒に軽い夕食をとっていたところ,夫の勤務先からお中元のビールが届きました。』

例えばこんな感じでしょうか。

ここで,Aさん夫婦は,こうした一見すると平凡なようにも見える1日の生活の中で,実にさまざまな契約関係に入っています。例えば…

①電車(バス・タクシー)を利用している場合には,Aさんは鉄道会社との間で旅客運送契約の関係に入っているはずです。
②次に,Aさんは勤務先と(パートタイマーとしての)雇用契約を結んでおり,それに基づき労働力を時間単位で提供し,お給料をいただいている関係に入っていると思われます。
③お昼休みにAさんが銀行の預金口座・通帳・キャッシュカードを作ってお金を入金する前提として,Aさんはその銀行と(消費)寄託契約を結んでいるはずです。
④各種支払いのうち,水道高熱費については(水道・電気・ガス会社との)各種供給契約に基づき供給を得たことの代金の支払いでしょうし,アパートの家賃の支払いについては,(夫が)家主との間で結んだ建物賃貸借契約に基づきアパートを自宅として使用収益していることの1ヶ月ごとの対価としての支払いでしょう。また,銀行カードローンの支払いについては,(夫が)その銀行との間で結んだ(金銭)消費貸借契約に基づき借入れをしたお金(借金)の1ヶ月ごとの返済としての支払いでしょう。
⑤ スーパーで買い物をする際には,その場でAさんがスーパーと購入する商品についての売買契約を締結し,その場で代金決済をしているのでしょう(カード利用の場合は後払いになります。)。
⑥学習塾や英会話教室に通わせているということは,Aさん(あるいは夫)が継続的役務提供契約といって,一定期間一定のサービスの提供を受ける代わりに月謝等の費用の支払いをする契約を塾や教室と結んでいるはずです。
⑦ なお,お中元については,これを「契約」といわれるとピンときませんが,一般的には贈与契約といって,Aさんの夫とその取引先とは,ある物(ビール)を無償(タダ。対価なし)であげる・もらう契約関係に入っているという評価になるのだと思われます。

…などといろいろ書きましたが,ここでお伝えしたいことは,何となくお分かりのように,皆さんは社会生活を送る中で,目に見えない無数の相手方と『赤い糸』ならぬ『契約の糸(鎖)』でつながっているということです。そして,こうした『契約の糸(鎖)』は,一度きちんと結ばれてしまうと,簡単に断ち切ることができない,ということです。

以 上


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