「証拠(しょうこ)」って何?【その1】

さて,今回は,「証拠」についてです。

三省堂の辞典「大辞林」で調べてみると,証拠とは,①『事実・真実であることを明らかにするよりどころとなる事や物。あかし。しるし。』②『訴訟法上,判決の基礎たる事実の存否につき裁判官の判断の根拠となるような資料』等と書かれていました。

①の意味では,たとえば結婚指輪は,夫婦の愛情のしるしという意味の証拠になるのかも知れません。もっとも,前号(5月号)で「裁判所は,『法律』と『証拠』に基づいて…」とお話しした『証拠』とは,②の意味を指しますので,ここでは,②の意味の「証拠」についてお話をしたいと思います。

一口に「証拠」といっても,実に,いろいろなものがあります。

時代劇で時々出てくる「証文」だとか,現代でいえば「借用書」などは,借金の存在やその内容が確かにあることを示す証拠でしょうし,「領収証」は,何らかの理由でお金を支払ったことを示す証拠といえるでしょう。細かい字がぎっしり印刷されている「○○契約書」は,そこにいろいろ書かれた内容の契約(権利義務を伴なった約束)があることの証拠になるでしょう。病院で出された「診断書」は,その人が何らかの理由で負傷をしたことを示す証拠ですし,例えば「携帯メール」で相手の人を脅迫したり,名誉を毀損したり,不倫のやり取りをしていたという場合,そのメールの内容が,そうした脅迫や名誉毀損や不貞行為の証拠になることもあります。

また,人が死んでいる現場に落ちていた,その人の血の付いたナイフは,状況(傷の状態とナイフの形状とが一致する場合等)によっては,それによってその人が殺されたことの証拠になり得るでしょう。

このような書類(「領収書」)とか物(血の付いたナイフ)だけではなく,ある事故やある犯罪を目撃した人(証人)の証言も,同じく証拠(その事故や犯罪の存在や,事故や犯罪を誰が起こしたかを示す証拠)となり得ます。

…などといろいろ書きましたが,皆さんにここでお伝えしたいことは,「自分に権利があることや,義務がない(なくなった)ことなど,相手方や周りに主張したい(主張する必要がある)ことがあるときは,後で困らないよう,必ずその裏付けとなる『証拠』を残しておきましょう。」ということです。

言い換えると,自分に権利があることや,反対に義務がない(なくなった)ことについては,面倒でもその都度きちんと証拠を作っておかないと,後になって思いがけないトラブルに巻き込まれ,大変困ったことになるかもしれないので,注意が必要です。

例えば,お金を貸す人は,お金を貸す際に借主から署名捺印をしてもらった「借用書」等をもらっておかないと,後で借主から「あなたにはお金なんて借りてないよ。だからあなたにお金を返す必要もありません。」と言われた時には,「お金を返してもらう権利」を証明できなくなる危険性が高くなります。反対に,借りたお金を返す人は,お金を返した際に貸主から署名捺印をしてもらった「領収証」等をもらっておかないと,後で貸主から「あなたからお金なんて返してもらってないよ。だからちゃんと返して。」と言われた時には,「お金を返したので,もう返す義務がないこと」を証明できなくなる可能性が高くなります。

「私の知り合いには,そんなムチャなことを言う人はいない。」「そんなトラブルに巻き込まれたら,詐欺だといって警察に相談すればいいのでは。」とお考えの方も,多くいるかも知れません。しかし,法律相談を受けて思うのは,こうした「信じられない」と思われるようなことが,証拠がないために,あっても不十分であるために,トラブルになってしまっていることが決して少なくない,ということです。

以 上


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