「離婚」って何?【その8】

テーマは「離婚」で,前回に引き続き,「養育費」「婚姻費用」(離婚に前後して支払われるべき月々の生活費)のお話をしています。

今回は,①養育費や婚姻費用がどうやって具体的な金額として決まるのか,②具体的に決められた養育費や婚姻費用をどういう方法で獲得するか,のうち,②についてお話しします。

養育費や婚姻費用は,基本的には夫婦の話し合いで決められることになります。もっとも,夫婦2人での話し合いでは折り合いがつかない,ということもあるでしょう。また,話し合いで一旦は取り決めができて,養育費や婚姻費用を支払ってもらうことになったとしても,現にお子さんを育て,日々の生活費を負担する立場の親としては,この先いつ支払ってもらえなくなるかわからないから不安だな…ということもあるでしょう。

そういった場合に有効な方法としては,A 養育費や婚姻費用の支払いを約束する契約書を作成し,その上でこれを「公正証書」という特別な形式の書面にしておく方法,それと,B 家庭裁判所に養育費や婚姻費用の分担を求める調停を申し立てることで,話し合い自体を裁判所で行う方法,があります。

まず,Aここにいう公正証書とは,公証人という公務員による証明が行われた文書をいいます。公証人は,市区町村役場ではなく「公証(人)役場」という場所にいます。なお,最寄りの「公証(人)役場」は,人吉球磨地域だと八代市内,伊佐地域だと薩摩川内市内,それにえびの地域だと都城市内となります。その「公証(人)役場」で,公証人に一定の手数料を支払い,養育費や婚姻費用の支払いを約束する契約書を「公正証書」にしてもらうのです。

養育費や婚姻費用の支払いを約束する契約書を公正証書にする大きなメリットは,契約内容がきちんと証明されるだけでなく,公正証書の中に「約束した支払いを怠ったら,直ちに強制執行をされても文句を言いません。」という言葉を入れておけば,養育費や婚姻費用の支払い約束が守られなかったら,一定の手続にしたがって相手方の給料や預金等の財産に強制執行差押え等)をすることが可能になるという点です。その結果,「相手方にお金があるのに養育費や婚姻費用を支払ってもらえない…」という事態は,避けられるかと思います。

ただし,公正証書の元となる養育費や婚姻費用の支払いを約束する契約書については,公証人は作ってくれません。そうした契約の内容(養育費や婚姻費用の金額や支払期間だけでなく,お子さんの親権や面会交流のあり方等も含みます。)については,夫婦で予めよく話し合う必要があります。

こうした契約書作成にあたっては,いろいろな事情を考慮する必要があることも多いことから,一度は弁護士に相談されることをお勧めします。

つぎに,B 調停ですが,これは家庭裁判所という場所で,調停委員のアドバイスを受けながら,養育費や婚姻費用の金額や支払期間等の条件を話し合いで決めていく手続です。

養育費の取り決めについては,離婚や親権の取り決め,面会交流のあり方の取り決めの調停と合わせて行われることもあります。なお,気をつけなければならないのは,こうした調停は,調停の相手方の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てる必要があるということです。

調停の場では,何回かの期日に参加する中で,お互いの言い分や事情(経済状態等)を調停委員を通じ相手方に伝えることで,あるべき養育費や婚姻費用の金額等の条件を決めていきます。そうした話し合いの際には,前号でご説明したいわゆる「算定表」が,重要な物差しとして用いられます。

こうした算定表や調停委員のアドバイスを参考に話し合いが進み,その結果(離婚・親権その他の点と合わせて)養育費や婚姻費用の金額等の条件について合意ができたら,調停成立したとして,「調停調書」が作られます。こうした「調停調書」が作成されることの大きなメリットとしては,公正証書と同じく,そこで合意した養育費や婚姻費用の支払い約束が守られなかったら,一定の手続にしたがって相手方の給料や預金等の財産に強制執行(差押え等)をすることが可能になるという点です。

ところで,万が一,調停での話し合いではあるべき養育費や婚姻費用がどうしても決まらない(あるいは相手方が支払い自体を拒否して話にならない)という場合には,審判を申し立てることで,養育費や婚姻費用については裁判官(審判官)の最終判断(審判)を仰ぐことができます。その場合,審判の結果が示された「審判書」に記載の養育費や婚姻費用の支払いがされなかったら,公正証書(とされた契約書)や調停調書と同じく,一定の手続を経ることで相手方の給料や預金等の財産に強制執行(差押え等)をすることが可能になります。

以上お話ししてきたように,養育費や婚姻費用の金額を決めるにあたっては,「算定表」という物差しがあり,またその実現の方法として「公正証書」「調停」それに「審判」という道具がありますが,基本は,夫婦が,お互いの現在及び将来の経済的負担の状態やお子さんの福祉にできるだけ配慮し,お互いに可能な範囲で譲り合いながら話し合いをすることが望まれるのだと思います(難しいとは思いますが…)。

養育費や婚姻費用についても,夫婦2人で「あるべき姿が何か」を決めていく作業は,簡単ではありません。そういうことで困ったときは,弁護士に相談されることで,解決の糸口が見つかることもあるかと思います。

次回は,離婚のうち,お子さんとの「面会交流」について,お話しする予定です。

以 上


戻る