前回に引き続き「離婚」について,今回は,離婚に前後して支払われるべき(月々の)生活費である「養育費」と「婚姻費用」についてお話しします。
まず,①「養育費」(民法766条)とは,「未成熟子が独立の社会人として成長自立するまでに要する全ての費用」を指すと言われます。例えば,子の衣食住の費用・教育費・医療費・適度の娯楽費等が,これに含まれると思われます。
次に,②「婚姻費用」(民法760条)とは,「夫婦と未成熟子により構成される家族が,その資産・収入・社会的地位に応じた通常の社会生活を維持するのに必要な費用」であって,夫婦が互いに分担すべき費用を指すと言われます。例えば,通常の範囲の家族の衣食住の費用・子の教育費・医療費及び家族の社会的地位にふさわしい娯楽費・交際費等が,これに含まれると思われます。
イメージとしては,①と②は離婚の前後で分かれ,①離婚後に子(未成熟子)のために負担すべき生活費が養育費であり,②離婚前の別居中に夫婦の一方が他方に対して負担すべき(未成熟子がいる場合はその分を含む)生活費が婚姻費用である,と考えると,わかりやすいかと思います。
離婚にあたっては,未成熟子を監護(実際に養育)していない親は,監護している親に対し,離婚後にはこうした生活費等を①養育費として(毎月)支払わなければなりませんし,離婚に向けての別居中には離婚するまでは,未成熟子に(場合によっては)監護している親(他方配偶者)の分を加えた生活費等を②婚姻費用として(毎月)支払わなければならない,ということになります。
①や②に出てくる「未成熟子」とは,厳密には「未成年者(20歳未満)」とは異なります。①や②の支払い期間としては,家庭裁判所の調停や審判に持ち込まれた場合は,子どもの状態や親の資力及び学歴等の家庭環境をふまえ,18歳(高校卒業時)までとか20歳(成年に達した時)までとされるケースが多いと思います。
なお,①養育費は,夫婦が内縁関係だった場合でも,父が子を認知することにより法律上の親子関係が発生していれば夫婦の一方から他方に対し請求し得ます。また,養育費は,親子の扶養義務の表れという面があるので,未成熟子の親である限りは負担すべきとされ,例えば親権者にならなかったことを理由にその支払いを拒むことはできません。
また,②婚姻費用は,子がいない場合でも夫婦の一方から他方に請求し得ますし,また夫婦が内縁関係である場合も,夫婦の一方から他方に請求し得ます。
ところで,①養育費及び②婚姻費用を負担するにあたっての義務の程度は,いわゆる「生活保持義務」といって,自分の生活を保持するのと同程度の生活を被扶養者(未成熟子や夫婦の一方)に保持させる義務であるとされます。古めかしい言い方をすると,「一椀の粥も分けて食う」関係とされます。負担すべき立場とされる夫婦の他方としては,“自分の生活に無理のない範囲で,余裕がある時に最低限相手を食わせればいいじゃないか”と思いたいところですが,そうはいかないとされます(もっとも,負担すべき立場の人がいわゆる生活保護基準による最低生活費を賄うと経済的余力がないといった客観的な窮乏状態であれば,負担の義務を免れるでしょう。)。
次回では,こうした「生活保持義務」の表れである①養育費や②婚姻費用が,どうやって「月○万円」といった具体的な金額として決まるのか,そして,具体的に決められた①養育費や②婚姻費用の獲得をどういう方法で実現するのか等について,それぞれご説明する予定です。
以 上