今回は,「結婚(婚姻)」の手前のものである「婚約」についてお話しします。
「婚約」を「法律学小辞典」で調べてみると,「将来婚姻をすることの約束」と書かれていました。「結婚することの予約」とイメージすれば,分かりやすいでしょうか。
婚約したことが認められると,その効果として,どのようなものが認められるでしょうか。これまでお話しした結婚(婚姻)の場合と比較して,見てみましょう。
この点,結婚(婚姻)して夫婦になった場合に当事者に「同居義務」が発生するのと同じように,いわば「結婚をする義務」を認め,これを強制できるのでしょうか。婚約が「婚姻の予約」(契約の一種)であることからは,契約としての婚姻の履行を強制できるという結論にもなりそうですが,結婚(婚姻)は,あくまで当事者の自由意思に基づきなされるべきものと考えられている(日本国憲法第24条1項に「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し」と明示されているのは,そうした考えを表したものと思われます。)ことから,裁判によっても結婚すること自体を強制したり,婚約不履行(婚約破棄)に対して強制執行をすることは,いずれも認められないとされます。
他方で,婚約不履行(婚約破棄)については,やむを得ない事情(婚約破棄したことについて責められないような具体的事情)がない限り,契約違反として,一定の責任(不履行や破棄によって相手方がこうむった損害を賠償する義務)は発生し得ます。ここにいう「損害」とは,いろいろなものが考えられますが,例えば,①結婚することを前提として発生した費用(結婚式や披露宴を行うための式場へのキャンセル料や新婚旅行のキャンセル料,それに新世帯を前提に購入した家具類の費用等)や,②相手方が結婚を前提に退職してしまったような場合に,その人が退職せずに働いていたら得られただろう利益(「逸失利益」と言います。)の一定期間分,それに,③婚約を不当に破棄されたことで精神的な苦痛を受けたことに対する慰謝料が,「損害」となり得るでしょう(②や③は,その人その人の具体的事情によりその金額が変わり得るでしょうし,また争いになりやすいと思われます。)。
また,婚約破棄によって婚姻が成立していない場合には,いわゆる結納金は返還してもらえるというのが一般的な考え方です。結納とは,最高裁判例によれば,「婚約の成立を確証し,あわせて,婚姻が成立した場合に当事者ないし当事者両家間の情誼を厚くする目的で授受される一種の贈与」とされていますので,結婚(ここでは,届出を欠く内縁関係も含むと思われます。)が成立しなければ,結納はその目的を達していないと考えられるからです。
では,こうした効果を生じる婚約は,どのような場合になされたと認められるのでしょうか。婚約も,一種の契約であり,契約に基づく権利を主張するのですから,争いになる場合には,やはり証拠による裏づけが必要になります。では,婚約を裏づける証拠とは,どんなものがあるでしょうか?
一番分かりやすいのは,①「婚約指輪」としての指輪の取交しをしていることでしょうか。それに,先ほど出てきた②結納金の受渡しをしているとか,お互いの親同士で結納の趣旨の会合をもった記録があるとか,③結婚式や披露宴の会場を(双方の同意のもとで)予約したり打合せをした記録があるとか,④相手方の出席する会合に出席して,そこで「婚約者(場合によっては配偶者)」として紹介をされていたとか,⑤結婚をすることを前提とするやり取り(例えば,結婚式や披露宴,新婚旅行の内容やスケジュール等についての会話等)について,何等かの記録(例えば電子メールや携帯メールやラインなど)が残っている場合も,証拠にはなり得ると思われます。
婚約破棄をした当の本人がご自分の落ち度を認めていれば,そうした証拠はいらないという考え方もあるかも知れませんが,その場合でも,「婚約破棄を認めたこと」を明らかにする書面に署名捺印してもらった方がよいと思われます。後で「そんなこと認めていない。」と言われて,困らないように…。
こうしたことでお困りで,もう少し詳しく聞きたいな,という方は,弁護士にご相談ください。
以 上